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【感想147】ふれる。

 面白い面白くないの前に、ひどいの一言に尽きる。

 約20年近くを共に過ごしてきた島育ち3人が、痛みにも向き合うコミュニケーションを知り始めていく。という物語とはいえ、3人以外は舞台装置としか言えない存在だし、肝心の終盤の展開では気持ちが動かない。

 なんだけれど、時折挟むシーンでとてもいいところはある。本当に歪な評価をしてる映画になってしまった。

他人に勧めやすい ★★☆☆☆
個人的に好きか  ★★★☆☆


 物語中盤までに仕組まれたロジックはかなりいい。
最初のシーンで疑問に思った点はしっかりと伏線として組み込まれたものではあったし、幼少期のシーンで感じさせられる気味悪さも終盤で展開されるメッセージに組み込まれたものだったなとは思えた。
この映画に含められただろうメッセージも、第三者に対するケアという、多くの人に浸透し始めた概念に対するカウンターが用意されている。
この、一般論から数歩は前にちゃんといる脚本をかける岡田磨里らしいっちゃらしい話は今作も健在ではある。

 特に個人的に唸らされたのは主人公の一人である秋と、居候として来た樹里とのスマホ経由でのやり取り。
昨今は「リモートで話すことはできるけど、会って話すのが一番だよね」という風潮が強くなってきた中、秋は樹里とのSNSでのやり取りで他人との繋がりを実感する。
違う場所にいても同じ景色を見ていることを通して、終盤までに対話での相互理解を持って行くんだろうという作劇の都合もあれど、悪意の表現として用いられることが多いSNSコミュニケーションに対して、肯定を含むニュアンスでの利用は結構驚かされた。
口下手な秋でもテキストでなら、というところでも後押しする要素として申し分ないし、このシーンの話をしたいぐらいには惹かれるものがあった。


 そんなシーンがあっても、映画として、物語としてかなり致命的なのは終盤が全てだと思う。絵的にもストーリー的にも盛り上がらない。

 ノルマかのように派手なフィクション空間に連れていかれ、大画面を縦横無尽に駆け回るダイナミックなアクションがある。
『空の青さを知る人よ』でもありはしたけれど、登場人物の晴れやかになった心境とリンクする形で疾走し始めるので、これに関しては気持ちよく受け入れながら見ていた。
ただ『ふれる。』ではそうもいかず、登場人物は全員20代の大人として分類される人たち。アニメ特有の表現としてできるフィクション色の強いアクションを交えるには青臭さが鼻につくし、題材が題材なだけにどっしり構え続けてたほうが似合う。料理や風景で絵の美麗さを見せつけまくっているわけだから、奇を衒う世界へ導かずに表現のアプローチを変えるような工夫でよかったんじゃない?ていうのが正直な感想。

 あとは人物の描き方がかなり作為的で、特に女性2人の役割が主人公たちをかき回すだけでしかないうえに、贔屓目に見てもあまり好意的に受け取れる性格をしていない。
秋からはかなり攻撃的な嫌味を言われるシーンがあるけれど、秋に対しての嫌悪感より先に同情の気持ちが先に来る。終盤でのある台詞がそれを助長していて、狙って描写しているなら女性層に対して無礼だし、狙っていなかったらそれ以前の問題として酷い。


 コミュニケーションの映画をやっているのに人物の心情へのフューチャーが足りない。加えて細かな違和感が積み重なり続ける。なので爽快感溢れる画面なのに気は全く晴れやかじゃない、とちぐはぐな感情のまま終わってしまった。
思春期に抱えたものから発展的になる、とは特典のリーフレットで語られてはいたけれど、結局思春期の抱えているものを思春期過ぎても解消しなかった延長戦の決着になってしまっている。

 原作モノとはいえ、『ギヴン 海へ』でかなりハイレベルなアンサーを見せられた次にこの映画を観たのもあって、もっとやれたんじゃ...?ていう疑問の方が残った。

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