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私が「豆味噌」と書く理由 ~ 名古屋における複雑な味噌事情

スープ作家の有賀薫先生が「赤味噌」についてのnoteを書かれていらっしゃいました。

名古屋生まれ名古屋育ち名古屋在住なネイティブ名古屋人の私にとっては、小さな頃から「赤味噌=豆味噌」が当たり前。豆味噌以外の味噌で「赤味噌」と呼ばれるものがあると知ったのは料理家として本格的に活動を開始してからのことでした。それからは誤解がないように原則的に「豆味噌」で表記をしています。

……と簡単に書いておりますが、名古屋における味噌の呼び方の話、実は大変複雑な事情を抱えていたりします。

スーパーに行けばこんなかんじでいろんな「赤味噌(豆味噌)」が売っている名古屋。しかし、これらの呼び方がなんと5つにも分かれているんです。

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その5つがこちら。

○赤味噌
○赤だし味噌
○無添加赤だし味噌
○豆味噌
○八丁味噌

まずは「赤味噌」。これは一番広い味噌の呼び方で、名古屋では後述する赤だし、無添加赤だし、豆味噌、八丁味噌を全て含む「豆味噌ベースの赤い味噌」の総称的に使われています。名古屋では豆味噌以外の「赤味噌」という概念がないため、豆味噌以外の赤味噌なら例えば「仙台味噌」のように地域名で呼ばれるのが一般的です。

続いて「赤だし味噌」。これは「豆味噌をベースとして、かつお節や昆布などのだしや調味料を加えて使いやすくしただし入り味噌」を指します。単に「赤だし」と言うことも多いですね。使い勝手が良いため、家庭でよく使われている味噌でもあります。

3つ目の「無添加赤だし味噌」は少々ややこしいです。本来「赤だし味噌」といえば出汁入りが特徴なのですが、無添加赤だし味噌には出汁成分など味噌以外の調味料が一切添加されていないんです。

実はこの「無添加赤だし味噌」は、豆味噌に米味噌を加えた合わせ味噌。豆味噌の弱点である「甘味の少なさ」を米味噌を加えることで補い、純粋な豆味噌よりもマイルドに仕上げた味噌なのです。

実はこの豆味噌に米味噌を合わせる技は名古屋の料亭や飲食店などではちょくちょく見られる手法。みそ煮込みうどんの味噌つゆなども白味噌を加えて調味しているところが多かったりします。このため、名古屋エリアの味噌メーカーには白味噌や西京味噌をラインナップしているところも多くあります。

4つ目の「豆味噌」には2つの意味がありますね。広義では「赤味噌」と同じように使いますが、より厳密に使う文脈の中では「大豆と豆麹と水と塩だけ作った味噌そのもの(赤だし味噌や無添加赤だしのように調味していない味噌)」を指します。とはいえ「豆味噌」という言葉が名古屋で一般的かというとそうでもなく、やっぱり一般的には「赤味噌」と呼ばれることの方が多いのが現実です。

そして最後の「八丁味噌」。これが一番ややこしい味噌です。

かつて八丁味噌は「豆味噌」とほぼ同じ意味合いで使われていました。名古屋エリアでよく使われる味噌が「八丁味噌」ですね。「八丁味噌使用」とうたっている飲食店は今でも名古屋のあっちこっちで見られます。

しかしあまりにも「八丁味噌」の名が広く使われるようになったが故に、愛知県の味噌業界を揺るがす事態に発展してしまいます。

それが「八丁味噌のブランド帰属問題」。

八丁味噌のもともとの由来は「岡崎市にある八帖町で作られていた豆味噌」というもの。今でも八帖町には老舗の味噌メーカー2社が昔ながらの伝統製法を守りながら「八丁味噌」を作り続けています。

しかし、先ほど言った通り、一般認知としては「八丁味噌」は「豆味噌」のことを指すものとしてすっかり定着。「八帖町で作られた」の部分は落ちて、一般名詞扱いになってしまったわけですね。

実際、八帖町の味噌メーカーが1980年前後に八丁味噌の商標登録を試みますが、東京高裁において

『八丁味噌』とは、愛知県岡崎市を主産地とし、大豆を原料とする豆味噌の一種であり、『八丁味噌』なる文字は、該商品を指称する普通名称であると認められる

と指摘されるに至りました(引用部位はwikipediaより)。

その後も八丁味噌のブランド帰属については様々な争いがあり、現在もなお決着が付いていません。ここで詳細を書くことは控えますが「八丁味噌 商標」で検索をするとたくさんの記事が出てきますのでご興味のある方はぜひご覧下さい。

全国的にはもしかすると「豆味噌」よりも「八丁味噌」という呼び方の方が通りが良いのかも?と思ったりすることは多くあります。しかし、残念ながら現状では「八丁味噌」と言う呼び方は非常にセンシティブなものとなっており、料理家としてレシピの説明で使うことは憚られております。

とはいえ、「赤味噌」では一番最初に述べたとおり名古屋での認識と全国的な認識では違いがある。ということで、私のレシピでは原則的に「豆味噌」で表記を統一しているわけです。

じゃあ「豆味噌」と書いてあるところで「赤だし味噌」を使っちゃダメなのか? これについては全く問題ありません! ただ、豆味噌と赤だし味噌では使う量や一緒に入れる出汁などの量が変わってくるため、その点は味を見ながら調整頂ければと思います(特に赤だし味噌はメーカーによって添加されている出汁などの量や種類が大きく異なるため、一概にどれくらいで調整というのが言いがたいのが正直なところです)

少々長くなりましたが名古屋における「赤味噌」のちょっと複雑な事情のお話でした。ちなみにサムネにある「一分で分かる赤だし味噌汁の本当の作り方」はこちらの動画でご覧頂けます。目からウロコの赤だしレシピ。この動画を見れば「本当に美味しい赤だし」のヒミツが分かります!


ここから先は「八丁味噌」に関する個人的な見解を書いております。
有料エリアとしておりますが、正直申し上げて楽しいことも有益なことも書いておりません。
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