見出し画像

海の家のバイトでコミュ力が養われなかった話⑤

 「ホントに食べるの好きだな」

 心の距離を取って自分の話をなるべくしないように、接していた
 熊(店長)は他のアルバイトに比べて僕とは距離があって、僕自身も縮めないように関わってこれていた、多分野生の熊に森で遭ったときもこれで正しいと思う。
 賄いを食べ過ぎることは僕にキャラを与えた。
 食べるのは昔から嫌いである。時給が低いことに対しての反抗心で食べていただけで、食べたかった訳ではない、美味しかったけど。
 キャラ付けがされると、次は会話がパターン化されてしまう。
 僕の昼ごはん休憩の時間には必ずキッチン内に
 「大盛り用意しとけ」
 と声がかかるようになり、沢山食べようが食べまいが
 「今日はそれでいいのか?」
 と言われるようになった、悔しいからおかわりをして苦しくなるまでがパターンになってしまった。
 森で遭遇した熊に距離を縮められたら後は食べられるだけで、人間はなす術がない。
 6月から2ヶ月間耐えてきたのに、大食いキャラになりイジられるようにもなった。
 お盆が終わり、シャワールームのシャンプーとボディソープの減るペースも少しずつ穏やかになっていった。
 ここから、夏の海をギリギリまでしゃぶり尽くしてしまいたい、往生際の悪い人間の我慢比べが始まる。
 夏は多分満足した人から終わっていく
 
 もう波の音も、焼けるような暑さも、痛いほどの紫外線も、しがみついてくる砂も全部いらない。
 お腹いっぱい

つづく
 
 
 

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?