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真夜のお誕生日
その日、ウサギとカメは新宿の街をふらりと歩いていた。「ここだよね?」ウサギは隠し扉のようなエレベーターを見つけて、上に行くボタンをそっと押した。
アクアリウムダイニングに入ると、青い水槽がいくつも並んでいて、その澄んだ水の光が二人を静かに包み込んだ。
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いや、二人ではなく、この場にはもう一人、少し場違いな雰囲気を纏い、落ち着かない様子でそわそわと座っている人がいた。二人の間に挟まれた真夜は、普段とは違うよそ行きの服を着て、どこか緊張した面持ちだった。
「真夜さん、お誕生日おめでとう!」
ウサギとカメは声を揃え、シャンパングラスを掲げた。「ありがとう」真夜の小さな声は、かろうじてウサギとカメの耳に届いた。
「真夜さん、たまには外に出たほうがいいわ。私みたいに走るのは無理でも、カメくんと一緒に図書館に行くくらいならできるんじゃないかしら」ウサギは真夜の瞳をじっと見つめた。
「でもね、僕たちの冒険をいつも物語にしてくれるのが本当に嬉しいんだ。読むたびにそのシーンが鮮やかに蘇ってくるからね」カメは静かに微笑んだ。
「今日はマスカットのデザートにしてみたの。それに、熱帯魚が見られるレストランを選んだのよ。スイーツも水族館も、真夜さん好きでしょ? 今度は一緒に水族館にも行こうね」 そう言って、ウサギは優しく真夜の手を取った。
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デザートをお皿にのせると、ウサギとカメはそれぞれ、オーガニックアールグレイとジンジャーツイストをティーカップに注いだ。
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「真夜さんはラテアート入りのカフェラテなのね。なんだか、子どもみたいで可愛い……。でも、それが真夜さんらしくていいの」ウサギはそう言って、優しく微笑んだ。
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三人で過ごす穏やかな時間は、ゆっくりと、それでいてあっという間に過ぎていった。真夜の感謝の気持ちは、言葉にしなくてもウサギとカメの心にそっと届いていた。まるでその場の空気のように、自然で温かく。