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妖美な灯りと物語
その日、ウサギとカメは百段階段の「おはなしの玄関」の前に立ち、御簾越しに灯りを見つめていた。ウサギがカメに囁いた。「今日はどんな物語に出会えるかしら?」その声には、どこか切ない期待が漂っていた。
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歩を進めると、涼やかに揺れる風鈴の音の向こう側で、まるで何か秘密を知っているかのような猫が、二人を静かに見つめていた。
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十畝の間に足を踏み入れると、そこは竹取物語の世界だった。無数の竹が放つ柔らかな光が部屋を優しく照らし、その上には大きな月が静かに浮かんでいた。
辺りにはかぐや姫の気配が淡く漂い、彼女がその場にいるかのような錯覚に囚われた。
ふと壁に目をやると、そこには天女の羽衣が浮かび、そよそよと揺れていた。「天女の羽衣と言えば、織姫を思い出すわね」ウサギの声には、遠い記憶を辿るような儚さが含まれていた。
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草丘の間では青白い龍が水面の上を優雅に舞い、天井近くには色とりどりの鯉たちが、滝を登るかのように緩やかに泳いでいた。
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「灯りによって命を吹き込まれているんだね。青い龍も、宙を泳ぐ鯉も生き生きとしてる」と、カメが静かに言った。
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一歩一歩階段を上るたびに、連なる七つの部屋が次々と現れ、その度に物語の扉が開かれた。妖美な明かりが、それぞれの物語を艶やかに彩っていた。
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「天井や壁の絵が、おとぎ話と一体となって見えるわ。竹取物語のお部屋も、あの花鳥画の天井があるからこそ、竹と月が引き立っていたのね」と、ウサギは呟いた。
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百段階段を背にしながら、二人は胸の奥に物語をそっと刻み込んだ。今日の物語は一旦終わりを迎えた。でも、きっといつか新しい物語が始まるに違いない。
「また来ようね、この場所に」カメは彼女の目を見つめながら微笑んだ。その瞳には、静かな約束が秘められていた。