二つの月に願いを込めて
その日、ウサギとカメは下北沢の古着屋を訪れていた。ウサギは「そろそろ長袖が欲しいの」と呟きながら、鏡の前で自分の姿を確認しては、眉をひそめたり、口元に微笑みを浮かべたりしていた。
ウサギは、買ったばかりのシャツを抱え、浮かれた気分で街へ飛び出した。軽やかな足取りの彼女は、ふと、風に揺れる案内表示に目を留め、自然と足を止めた。
「ムーンアートナイトって何かしら?」
彼女は眉を寄せ、まるで秘密を探るみたいに首をかしげた。
さらに歩を進めていると、ウサギは、ふと違和感を覚え足を止めた。視線の先には、見たことのない虹色のアーチが、まるでここだけが別の世界であるかのように揺れていた。
「角度によって、微妙に色が変わるのね」
光のアーチをくぐりながら、彼女は眩しさに手をかざした。
やがて、夜の帳が静かに降りてきた。
「今夜は十五夜だね」カメがぽつりと言うと、ウサギは思わず空を見上げた。そこには中秋の名月が静かに浮かび上がっていた。
けれど、彼女が見つめていたのは月ではなく、そのずっと手前だった。彼女の視線の先には、直径7メートルの月が浮かんでいた。それは、現実離れした不思議な光景だった。
「月と言えば、やっぱり『うさぎ』だよね」とカメが言った瞬間、まるでその言葉に応えるかのように、「光のうさぎ」がふわりと目の前に現れた。
「このうさぎさんも、お月さまを見上げているわ。なにかお願い事でもしているのかしら」ウサギは小さく呟いた。
「私、今なんとなく、うさぎさんの願い事がわかったわ。きっとお腹が空いているの。美味しいスイーツを求めているのよ…」ウサギはそっとカメの手を取った。
「見て、可愛い! ポテトチップのお耳に、お芋のプリンよ。その下には大学芋もあるなんて最高ね。私、これに決めたわ!」
「光るうさぎ」の願いは、気づけばウサギがしっかりと叶えていた。