月明かりと魔法の夜
「十五夜のお月さまを見るなら、一番高いところがいいわね。」ウサギが楽しげに言うと、カメは少し遅れて視線を上げた。そこには、煌めく東京タワーが静かに佇んでいた。
「えっと、一番高くはないよね?」カメが呟くのを、ウサギは聞こえないふりをして、真っ直ぐ外階段に向かった。
「今日だけ、十五夜限定で外階段から登れるのよ。逃すわけにはいかないわ!」ウサギは、宝物を見つけた子どものように満面の笑みを浮かべていた。
お月さまを見上げながら、二人はゆっくりと外階段を登っていった。メインデッキに辿り着くと、「竹あかり」がふんわりと浮かび上がっていた。「十五夜といえば、お餅つきよね」ウサギは夢見るような声でささやいた。
「なんか、オバケが見える気がするんだけど、気のせいかな?」と、カメはウサギの背中にそっと隠れた。「見えてるなら、それはオバケじゃないわよ」彼女は、優しく目を細めた。
気を取り直して歩き出したカメは、ふと自分がガラス板の上に立っていることに気づいた。遠く下に見える人が米粒のように見えた瞬間、カメの意識は今度こそ遠くへ飛んでいった。
カメが目を覚ますと、ソフトクリームを持ったウサギが見つめていた。「気がついてよかった。冷たさで目が覚めるかと思ったの。溶けないうちに食べてね」
カメがようやく落ち着くと、二人はそっと寄り添うように歩き出した。すると、ウサギが何かを見つけ、嬉しそうに駆け寄った。
「見て、私が見つけたの! 三度目の正直よ」彼女が指差す先には、ハートがキラリと光っていた。それはまるで、夢の中にしか存在しない魔法の宝石のように見えた。
外階段を無事に降りると、二人はそっと足を止め、振り返るように東京タワーを見上げた。「今日だけなんだね、このライトアップって」 ウサギはそっと囁き、瞳を細めながら、その光を愛おしそうに見つめていた。
十五夜という、年に一度の魔法の時間は、名残惜しそうに二人をそっと包み続けていた。秋の気配を感じさせる夜風が、その魔法の合間を縫うように、ウサギの長い髪を優しく揺らしていた。