密寺の不思議な出来事
風が心地よい秋の午後、カメが待ち合わせ場所に着くと、ウサギはすでにそこにいて、少し息を弾ませながら話しかけてきた。
「昨晩、夢でお告げがあったの。今日はそこに行くことに決めたんだけど、ね、一緒に来てくれる?」
無言でうなずくカメの手を取ると、ウサギは迷うことなく、しっかりとした足取りで歩き始めた。しばらくすると、大きな石像と、その奥に続く階段が二人の前に現れた。
「待たれよ!」
ウサギが石像に向かって足を踏み出したその瞬間、どこからともなく大きな声が響き渡った。彼女は驚いてその場で固まった。
ウサギがゆっくりと頭を巡らせると、その先に二人の巨人が立っているのに気がついた。それぞれ金と銀の剣を振りかざし、じっとウサギとカメを睨みつけている。
「夢のお告げで来たの。私はウサギよ」
「ならば、通るがよい」
巨人はゆっくりと剣を収め、その場で動きを止めると目を閉じた。
「えっと、誰と話しているの? 僕には何も聞こえないけど…」 ウサギはカメの言葉には答えず、その手を引いたまま、無言で階段を駆け上がった。
二人は大きな木の下にたどり着き、その場にどさりと座り込んだ。
「よくおいでなすった」 その声に驚いてウサギが顔を上げると、布袋様が静かに彼女を見つめていた。
すると、今度は別の方向から声が聞こえた。「ここに来たからには、どんな望みでも言ってみるがよい」
ウサギがそちらに目を向けると、カメが視線を追いながら囁いた。「あれは、どんな願いも叶える万能の神、ガネーシャだね」
「見て!カエルがいるわ」
「私はただのカエルではない。弘法大師空海の言葉を伝えるもの、『虚往実帰』じゃ。空っぽだった心を、満たして帰るがよかろう」
「ねえ、石像の声、聞こえない?」
ウサギは不思議そうにカメを見つめた。
「なんでかはわからないけど、どうやら彼ら、私に話しかけてくるみたいなの」
ウサギはもう一度、石像をじっと見つめた。「まだ夢の中なのかな?」そう呟きながら、頬に指をあてて、そっとつねってみるのだった。
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