地下神殿という聖地
「涼しいところに行こうって言ってたけど、まさか川で泳ぐつもりじゃないわよね?」
ウサギは道路沿いを流れる江戸川を見つめながら、少し不安そうに言った。
「目的地はもう少し先かな。あ、ほら、見えてきたよ」とカメはハンドルを握りながら静かに答えた。ウサギが目を向けると、その瞳に大きな建物が映った。
「ここが入り口みたいだね」とカメが声を落とした。「えっ?地下に降りるの?」ウサギは少し驚いて彼を見つめた。
地下への扉が「ギィー」という音とともに大きく開いた。二人は視線を交わし、湿った足元を確かめながら、116段の階段を一歩一歩、静かに下りていった。
「うわ、なんなの、ここ?」
地下の世界に足を踏み入れた瞬間、ウサギは驚きのあまり、その場でぐるりと一回転した。「なんか、まるで異世界みたい…」
「ここは地下22メートルの世界。まるでダンジョンだよね。あの巨大な柱は18メートルもあって、地下神殿とも呼ばれているんだ。まるで本の中の世界にいるみたいだよ」とカメは、少し興奮気味に語った。
「この場所は、正式には『調圧水槽』と呼ばれていて、川の氾濫から水害を防ぐための施設の一部なんだ」
「この施設には『調圧水槽』だけじゃなくて、全長6.3キロのトンネルや、五つの立坑もあるんだよ」とカメは説明を続けた。
「そして、異世界みたいな場所だから、映画『翔んで埼玉』やBE:FIRST のミュージックビデオの撮影にも使われているんだよね」
「つまり、ここは聖地ってことね。じゃあ、もし私が有名になったら、ここは私が訪れた聖地になるのかしら?」とウサギは、いつもの調子で、そっと妄想を膨らませていた。