光の帆と万華鏡の夜
その夜、東京駅八重洲口のペデストリアンデッキに辿り着いたウサギとカメは、「光の帆」のような青い大屋根の下を、赤い燈籠に導かれるように歩いていた。
「丸の内口は時を感じさせる赤レンガ造りなのに、ここはまるで雰囲気が違うのね」洗練された景色に目を奪われながら、ウサギは静かに呟いた。
「見て!おみくじがあるわ」
ウサギは瞳を輝かせながら、ひときわ光を放つ一角に向かって足早に駆け寄った。
「このミストに濡らすとメッセージが浮かび上がるんだね。やってごらん」カメはおみくじを一枚手に取って、そっとウサギに手渡した。ウサギは小さく頷きながら、おみくじを慎重にミストにかざした。
「夏の終わりって少し切ないよね。そんなときは、一度立ち止まるのもいいのかな」と、カメは静かに言った。
「ねえ、あれは何かしら?」
ウサギは青い大きな灯籠を見つけ、まっすぐに駆け寄った。「万華鏡灯籠だって…」彼女は小さなボタンを押し、少しためらいながら、のぞき窓を覗き込んだ。
「万華鏡の中の江戸切子、八種類の色があるみたいだよ」とカメが優しく声をかけると、ウサギは微笑み、「私にはどの色が見えるのかな?」と、そっと自分に問いかけた。
「ねえ、さっきから気になってることがあるんだけど…」ウサギは、ふと顔をあげて前方をじっと見つめた。「あれ、何かしら?」
彼女の視線の先には、夏の夜を描いた絵巻物が、建物の壁一面に広がっていた。
二人は横断歩道を渡り、東京ミッドタウン八重洲へと足早に向かった。建物の前にあるベンチに腰を下ろすと、そっとプロジェクションマッピングを見上げた。
「こうやってひと息つきなさいってことね」と、ウサギが呟くと、秋の気配を含んだ風が彼女の長い髪をそっと揺らした。季節は静かに、しかし確かに移り変わっていった。