もう一度ハートを探して
身体まで溶けそうな灼熱の午後、ウサギとカメは「港の見える丘公園」を目指して、ゆっくりと階段を上っていた。
フランス山の木々が陽射しを遮ってはいるものの、じわじわと暑さが肌に広がってくる。カメはペットボトルの紅茶をウサギに手渡し、タオルでそっと額の汗をぬぐった。
「涼しい図書館から抜け出してまで、どうしてここに来たかったの?」とカメが静かに問いかけた。ウサギは「なんでもないの」と繰り返すばかりで、その声は風に乗ってどこかへ消えていくようだった。
「さっきからずっと下を見ているけど、何か探しているの?」とカメがウサギの横顔に視線を向けると、彼女は「そうなの。特定の形をした石を探しているの」と呟いた。
カメは足を止め、石をじっと見つめながら、遠い記憶の扉を開けようとするかのように目を細めた。「この会話、前に神楽坂でもしたような気がする…」
「もしかして、探し物がハートの石なら、さっき見つけたよ」とカメが呟くと、ウサギはギクリとして振り返った。カメが指さす先には、ハートの石が煌めいていた。
「どうしてカメくんがいつも先に見つけちゃうの? もしかして私のこと…」ウサギは小さく俯いて、モジモジと足元を見つめた。
「いや、そういうわけじゃないんだけど…。それより、僕にも行きたいところがあるんだ」とカメは視線を遠くに逃がしながら、話題を変えるようにウサギを中華街へと誘った。
「どう? このブタ角煮まん。ブタの顔が可愛くない? 一度食べてみたかったんだ」とカメは笑って、ウサギにそっと手渡した。
「それに、このハリネズミまん。揚げたパンでできているんだって。ちょっと変わってるよね」とカメは微笑みながら話し続けた。
「まぁ、いいわ。ハートの石より、このブタ角煮まんのほうが、私らしいってことね」とウサギは小さく笑った。二人を包み込むように、海風がそっと吹き抜けた。