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誕生月の淡い想い
その日、ウサギは風のように軽やかに乃木神社へ向かっていた。鳥居の前にある「乃木坂」の標識へ駆け寄ると、太陽のような笑顔で、手にしたカメラをしっかりと構えた。
「乃木坂って書いてあるだけで、もうそれは乃木坂46の聖地になるんだから」写真を撮り終えた彼女はカメのもとへ駆け寄り、いたずらっぽく笑った。
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境内にはまだ強い陽射しが降り注いでおり、カメは静かに額の汗をぬぐった。そんな彼を横目に、ウサギはまっすぐに絵馬が並ぶ場所へと駆けていった。
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たくさんの絵馬の中から、ようやく探していたメンバーの絵馬を見つけたウサギは、その瞬間、嬉しさのあまり軽く飛び上がった。「かっきーの絵馬!もう、本当に尊い!」
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賀喜遥香さんの絵馬
ウサギの周りには、同じように絵馬を見ているファンが何人かいたけれど、ウサギの目にはそれが全く入らなかった。ただひとつ、目の前の絵馬だけをじっと見つめていた。
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「今でもあの子を推してるの?」
ウサギは急にカメに振り返ると、無邪気な声で聞いてきた。「いや、僕は…」カメの答えは、ふっと吹いた風にさらわれるように消えていった。
カメはふと、思いを巡らせた。
「ウサギさんにもらった、ルナちゃんのサイン入りCD、あれは今でも大事に部屋に飾ってある。でも…ルナちゃんはもう、あのグループを卒業しちゃったんだ」と、カメは心の中で静かに呟いた。
卒業してしまったルナには、もうグループのライブでは会えなくなった。そのせいか、カメにとって、彼女は少し遠い存在になった気がしていた。
それでも、あの頃ちょうど仕事を変えたタイミングだったカメは、「きっと前に進むためには、卒業も必要なことだったんだ」そう思って自分を納得させていたはずだった。
今月はルナの誕生日が巡ってくる。
「特別なその日、僕はきっといつも通り『お誕生日おめでとう』とルナちゃんに言葉を贈るんだろうな」と、彼は思った。
カメは、今でも変わらず、自分がルナを心から応援していることに気がついた。