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月明かりに蘇る恋心
カメが未来のクリスマスの精霊の手に触れるか触れないかのうちに、冷たい光が彼を包み込んだ。反射的に身を縮めようとしたが、体は不思議な浮遊感に包まれ、現実とは異なるどこかへと導かれていった。
眩い光が消え、視界が戻ると、カメは精霊とともに空中を漂っていた。遥か下には見覚えのない荒れた海が、黒い波をうねらせながら果てしなく続いていた。
月明かりが闇を裂き、浮かび上がったのは、荒涼とした孤島だった。絶壁の縁に佇む人影は、風に揺られながら月光を浴びている。その顔は白い月を映したかのように蒼白で、海をただ静かに見下ろしていた。
「どこかで見たことがある顔だ…」
カメは目を細め、その姿をじっと見つめた。その瞬間、彼の表情は凍りついた。
「間違いない。あれは…」
月明かりに浮かび上がったその顔は、他の誰でもない。紛れもなくカメ自身の顔だった。まるで鏡越しに自分を見ているような、冷たい感覚が彼を包んだ。
ウサギを失った痛みは、カメの心の奥深くまで染み込んでいた。かつて共に過ごした温かな日々の記憶は、孤独を映す鋭い刃となり、終わりのない夜に迷い込んだような、逃げ場のない苦しみを彼に与えていた。
生きる意欲を失い、深く心を閉ざした彼は、断崖の上に一人立ち尽くしていた。目の前の海は、彼を誘うように波を揺らしていた。
「あれが未来のお前の姿だ」
どこからともなく響く声が、冷たい刃のごとくカメの心に深く突き刺さった。
「その先がどうなるかは、言わずとも分かるはずだ」 精霊の冷酷な言葉に、かろうじて残っていたカメの気力は儚く消えていった。
「彼女にもう一度逢いたい…」
かすかなつぶやきが彼の唇から零れ落ち、夜の風に溶けて儚く消えていった。最後の言葉を残し、彼は静かに意識を手放した。
どれほどの時が過ぎたのだろうか…。
カメがゆっくりと瞼を開くと、そこは見慣れた部屋の中だった。未来のクリスマスの精霊は消え去り、静けさだけが残されていた。
最終話へつづく