秋咲きの花と紅茶の香り
薄曇りの冷たい空気の中、ウサギは独り、駒沢公園のランニングコースを走っていた。辺りにはほとんど人影もなく、舞い落ちる枯葉と、どこかもの寂しげな風景が、彼女の表情に淡い寂しさを映し出していた。
ウサギは心ゆくまで走りきると、ふわりと長袖のウェアを羽織り、秋色に染まった公園の中を、紅茶の香りを探しながら歩き出した。
カフェまであと少しというところで、彼女はふと足を止めた。「人の手に渡らずに捨てられてしまうお花を、どうぞ手に取ってください」その文字が目に入り、気づけば花屋の入口をくぐっていた。
ひと目で見渡せるほどの空間に、秋咲きの花々が肩を寄せ合うように咲き誇っている。「秋のお花も可愛いですよね」店員さんの優しい声が、静かに耳に溶け込んできた。
「秋のバラは種類も豊富で、同じ赤でも、色合いや形がさまざまなんです」店員さんの声に、ふわりと心がほどける、ウサギは店内をくるりと見渡した。
秋を感じさせるススキの穂や、思いのほか色鮮やかな花々も静かに咲き誇っている。公園で感じていたどこかもの寂しい気持ちが、そっと解けていくのを彼女は感じていた。
ウサギは自分の気持ちにそっと耳を澄ませ、三本の花を選び取った。包まれた花束を胸に抱き、静かな足取りでカフェへと向かう。
カフェの席に腰を下ろし、両手でティーカップを包み込むと、視線は自然とテーブルの上の小さな花束へと落ちていった。ウサギはそっと花に手を伸ばし、指先で一輪の花びらに触れながら、小さく微笑んだ。
「幸せって、こんなふうに寄り添ってくれるものなのね」
秋の夕暮れ、静かなひととき。赤い花のほのかな温もりとアールグレイの甘い香りが、心の奥深くまでゆっくりと染み込んでいくように感じられた。