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走り続ける夢の先に
その日、ウサギとカメは、目の前に佇む大きな車両に、吸い込まれるかのように視線を注いでいた。その姿は、博物館の静寂に包まれながらも、今にも息を吹き返し、発車の合図を待ちわびているかのような印象を漂わせていた。
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周囲を見渡すと、どの車両も、かつてその時代を駆け抜けてきたものばかり。
「夏休みに遠くへ行く時は、いつも電車だったの」ウサギは目の前の光景に、子どもの頃の懐かしい思い出をそっと重ねていた。
「これが日本で最初に走った蒸気機関車なのね。どんな音を響かせたのかな。すごく揺れたりしたのかしらね」
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「隣にあるのは、その優美な姿から『貴婦人』と呼ばれたC57だね。細身のボイラーに、長い煙突を備えたそのシルエットは、日本中の人々に愛されていたんだ…」カメは思いを込めて語った。
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「鉄道の出発点を示す標識もあるね。東京駅が始発になる前は、新橋停車場がその役割を担っていたんだよ」
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館内には、車両の中に入れるところもある。「当時の人たちは、どんな気持ちでこの座席に身を委ねたんだろう」ウサギは古びた座席に腰を下ろし、その時代の空気に触れるように目を閉じた。
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「鉄道はどんどん速くなって、今では東京から新青森まで3時間もかからない。最高時速は320キロなんだよ」カメは、新幹線の模型を見ながら目を輝かせた。
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「えっと、私が1キロを4分で走っても、時速15キロだから…つまり、私の20倍以上速いってことなのね!」ウサギは瞳を大きく開いて、驚きの表情を浮かべた。
「飛行機もいいけど、地上を猛スピードで駆け抜けるのも楽しそうね。まだ見た事のない景色を見てみたいわ」と、ウサギは振り返ってカメに微笑んだ。
「秋に旅立つのもいいかもしれないね」
カメがそっとウサギの手を取ると、彼女も小さく微笑みながら、その手をぎゅっと握り返した。
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