回転する甘い記憶
観覧車から見下ろしていた夜景の中へと降り立ったウサギとカメは、甘い余韻に包まれながら、そっと光の中を歩き出した。
静まり返った空気の中、ふと耳に届く軽やかなリズム。その音色に導かれるように、二人の足は自然とアクアエリアへと向かっていた。
「あんなに賑やかだったプールも、今はこんなに静かで、なんだか切ないわ……」と、ウサギは小さく息を漏らした。
「でも、ほら、見てごらん。回転する噴水、まるでひまわりみたいに見えない?あの楽しかった夏を思い出すよね」とカメが言うと、彼女はそっと視線を上げ、じっと噴水を見つめた。
「ソレイユの丘で見つけたひまわりみたいね」ウサギはどこか懐かしそうに目を細めた。
「あのときも観覧車に乗ったよね。ゆっくりと回りながら見たひまわりの景色、今でもよく覚えているわ」
二人がアクアエリアを後にすると、足元に広がる光の絨毯の向こうに、ぼんやりとツインの観覧車が浮かんでいるのが見えた。
「こうして夜の観覧車を眺めていると、コスモクロックを思い出すわ。あのときも回転する観覧車の窓から、港の夜景を見つめていたのよね」と、ウサギはそっと記憶を辿った。
「そう…ゆっくりと回る観覧車の中で、心がふわりと高鳴っていたの。お月様がそっと見守ってくれていた、あの瞬間も」
二人は陽気な曲に耳を傾けながら、アトラクションの中を歩き続けた。そして、優しく輝きながら回るメリーゴーランドの前で、ウサギはゆっくりと足を止めた。
「普段は全力で駆け抜けているから、こうして立ち止まって眺めていると、なんだか不思議な感じがするの」
「ずっと回り続けているものを見ていると、甘い記憶が蘇ってくるのも不思議よね…」
「それにね、立ち止まってみると、大切な人の存在にふと気づくの。ああ、私、一人じゃないんだな…って」そう言いながら、ウサギは静かにカメの方を振り返った。
夜空には少し欠けた月が、やけに強く瞬いていた。その光はまるで、自分の欠けた部分をそっと埋めてくれる何かを、静かに探しているみたいに見えた。
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