とっておきの秘密基地
その日、ウサギとカメは、しとしとと雨が降り続く明治通りで、小さな傘をぎゅっと近づけ合っていた。足元にできた水たまりをそっと避けながら歩いていると、やがて二人は、鉢植えが並ぶ建物の前に辿り着いた。
入り口をくぐった瞬間、眩しい緑が視界いっぱいに広がった。「ここが日本一小さな植物園なのね!」ウサギは声を弾ませ、近くのマンゴーの木に駆け寄った。
高い天井も、大きく広がる窓も、なぜか手が届きそうに感じられる。「とても可愛らしい大きさね」とウサギがぽつりと呟くと、二人は目を合わせて、柔らかく微笑んだ。
「ここにある植物って、イチジクとかライムとかマンゴーとか、みんなフルーツばかりなのね。なんだか、全部食べられそうね」ウサギは思わず目を輝かせた。
「ここは、水耕栽培室で野菜を育てていて、カフェで採れたてのサラダが食べられるみたいだよ」カメはピンクに染まったケースを指さした。
二階に上がると、野菜や果物の絵本が二人を出迎えた。「見て、キャベツくんがある!」ウサギは嬉しそうに叫んで絵本を手に取った。
ライブラリーを抜け、二人はカフェへ向かった。植物園を一望できる席に腰を下ろすと、植物たちはまるで両手の中にすっぽりと収まるかのように見えた。
「おやつの時間なのに、ケーキが売り切れなんて残念すぎる…」ウサギは切なげに目を伏せた。「また来てくださいってことだね」カメは慰めるように、優しい声で囁いた。
「こんな寒い雨の日に、植物に囲まれて過ごすなんて、ちょっとした贅沢ね。心の奥まで癒されるわ」ウサギは心地よさそうに体をゆっくりと伸ばした。
「こんなところが都会の真ん中にあるなんて奇跡みたいだよね。まるで秘密基地を見つけた子どもの気分だよ」カメは雨の降り続く窓の外を静かに見つめた。
二人は後ろ髪を引かれながら、植物園を静かに後にした。冷たい雨の中でも、心の中には暖かい南風が吹いていた。