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【旅話】旅路の最終局面
(前書き)
長かった24時間歩行企画。
漸く旅路が終わろうとしている。
夏疾風が薫る旅路に休止符が打たれようとしている。
僕らは今治に渡る最後の橋を歩き始めている。
……。
つい先刻まで最悪だった空気。「休憩するか、休憩せずに歩き続けるか」で意見が割れた僕たちは、二人とも無言でトボトボと歩いていた。
と、傍らを歩く友人が、急に前を向いてものすごい勢いで坂を駆けあがった。慌てて僕は友人の後を追おうとしたが、生半可な早歩きでは追いつけそうになく、小走りで追いかけた。
友人はそのまま三里を一息で駆けると、喘ぐ僕を振り返って、満面の笑みで「どうよ」と言ってきた。
坂の頂上は気持ちがいい。振り返って見ると、今まで歩き通してきた道のりがはるか遠くまで続いている。
傍らで休んでいる友人に「急にパワーアップするけんビックリしたぜ」と呼びかけると、「なんかスピードでたね」と嬉しそうに言った。元々中長距離パートでブイブイ言わしていた相方、スパートに見る底力はお手のものと言わざるを得ない。
五月の暑い陽射しに、背中を押す確かな風の感触。陸上という目標のために共に切磋琢磨していた高校時代を思い出し、自然と懐かしい思い出で心がいっぱいになった。
友人のお陰で、僕らの間にあった居心地の悪い空気が払拭された。変わりに生まれたのが「諦め」という空気。「ここまできたら歩き切ろう」という爽やかな諦念だ。
平均時速2kmにまで落ち込んでいた僕らの歩調は、時速5kmにまでV字回復した。しまなみ海道の最後にして最長の島である大島を、予想を上回るスピード感で駆け上がったのである。
……そして話の舞台は、四国に渡る最後の橋へと移り変わる。海と空を分かつこの橋は全長約5kmの大舞台。橋上は海風が吹き荒れ、初夏の陽射しが降り注ぐ。まさに過酷な旅路のクライマックスにふさわしい。
「これが最後」、と、僕らは果てが見えない橋に第一歩を踏み出した。