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【小説】パンとワインと俺と明日

 それは一斉にやってきた。
 外を歩いている腐った死体の話ではない。この店内にある食料の消費期限の話だ。
 考えてみれば当然のことで、ロット単位での発注をする訳だから消費期限は一斉にやってくる。当たり前だが賞味期限なんぞとうの昔に過ぎている。
 最初は好き勝手食べていたものの逃げ込んだ三日後に食べた揚げ物で腹を下して以降、なるべく気をつけるようにしている。食べられそうな惣菜から先に片付けていると、なんとも所帯じみた避難生活を送っていると思う。
 試しに二階から傷んだカキフライを投げてみたが、腐った死体どもは目もくれなかった。昨日まで喜んで喰っていたような奴らが今は目もくれずに生肉を求めて徘徊している。そりゃあ生肉が喰えなくなって久しいけれど、死んでから何を気にすることなく生肉を喰えるとはなんとも皮肉な事だ。
 焼肉を食べたいな、と呟く。
「こちらのレバー、生でも食べられるくらい新鮮なんですよ」
 と言ってレバー焼きを提供するあの店に行きたい。一緒に行った人に「まだ早いよ」と言われながらほぼ生の焼肉を食べたい。焼き過ぎて黒くなった野菜だって今なら喜んで食べる。カリカリに焼けてしまった肉を横取りして怒られたい。
 牛もゾンビになったりするのだろうか、そんな心配をしてみたが今は何も分からない。

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