にじむラ

毎日必ず1000文字くらいの短編作品を書く男。 扉絵はAIが担当。ときどき自分で撮ったやつ。 金周りの悪さにPV屋から遠ざかり、最果タヒで詩を諦めた元詩人。

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  • 波打ち際ブンガク

    波打ち際ブンガク1年目が500円で読み放題! 360本くらいのオリジナル短編小説(1000字前後)がいっぱい。しかも読みきりばかり。 扉絵はAI出力!これはお得だ!

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【小説】さよなら、チャタロウ

 ブゥゥーーン、と鈍く低い音が鳴って、チャタロウは目を覚ました。  血の匂いとその温度がチャタロウの中で広がっていく。  その中でチャタロウは思い出していた。  チャタロウは世界の形を知らない。だからキリコの輪郭も曖昧なままだ。  チャタロウがキリコの為にできるのはキリコが飽きるまで一緒に生きる事とか、もしくは今すぐにキリコと別れて死ぬことくらいだ。……または殺すとか。その他の全てがエゴでしかない。全てがチャタロウの個人的なエゴだ。  チャタロウは笑った。  チャタロウは思

    • Re: 【短編小説】ぼっちTHEパンク

       黒板に書かれた曼荼羅みたいなグラフをノートに写しているとチャイムが鳴った。  そのチャイムとほぼ同時に、前に座っている馬鹿のスズキが振り向きざまに 「サックスやらない?」  満面の笑みでそう言った。  チラと見たスズキの机には数IIの教科書が置かれている。スズキは本当に馬鹿だ。いまの授業が数IIか数Bかも分かってない。  とは言え、おれも黒板の曼荼羅が何かわからないままノートに写しているから、似たようなものかも知れない。  写経を終えたノートを鞄に入れながら、気のない返事

      • Re: 【短編小説】ありがとう

         ディズニーシー?  違う、今から行くのは血の海。数時間後にはきっと赤い電飾が綺麗。  いいの、それで。  わたし、その赤い電飾のパレードに乗るんだわ。  そこで夢は終わり。  もう構わないの。わたしのハスクバーナだってもう要らない。 ✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎  寝汗と愛液、そして背徳感で重たくなったシーツから背中を引き剥がしてフローリングの床に立つと、マダオの足裏に厭なザラつきが伝わった。 「掃除くらいしろよな」  汗が滑り落ちるケツを掻くと爪に疲労が溜まった。  自分も大

        • Re: 【超短編小説】誰のせいでもありません, moon know

           風呂から上がってパックを顔に載せたところで、机に置いたスマートフォンが鳴った。  鳴らない、と思っていたものが鳴る。  鳴る為に在るのだが普段は鳴らない。  おれはスマートフォンに対して動揺を隠しつつ、鳴るものが鳴るのは当たり前だと言う感じで、ことさらゆっくりとした動作で手を伸ばした。  スマートフォンを見ると、ショートメッセージが来ていると言う通知だった。  確認すると、サークルの仲間がまたひとり捕まったと言うことだった。  罪状は真不敬罪だそうだ。  何がどう不敬だっ

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        【小説】さよなら、チャタロウ

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        • 波打ち際ブンガク
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          Re: 【短編小説】ケチャップビリー

           鉄の街はどんよりとした雲で覆われている。  華麗なる一族に産業を潰されかけてからと言うもの、すっきりと晴れたことがないらしい。  俺はトッピング過剰なホットドッグを持って図書館に向かうと、ルームメイトのビリーがバラ売り一本25セントのニューポート色をした煙を吐き出しながら 「遅かったじゃねぇか」と言った。  俺は精一杯のやれやれ顔をしてホットドッグを掲げる。 「仕方がない、パールハーバーに寄ってたんだ」  そして学ランの詰襟を指で弾いた。ビリーは怪訝な顔をしている。  察

          Re: 【短編小説】ケチャップビリー

          Re: 【短編小説】しあわせになりたい

           しあわせになりたいな、と思った。  でもしあわせって何なのか分からないし、どうやってそこに向かうのかも分からなかった。  差し当たり、体育館の大きな照明器具が落ちてきて野本とか横川あたりに直撃するのが手近なしあわせだ。  しかし勿論そんなことが起こるはずもなく、平和な始業式が終わると野球部の野本が近寄ってきた。  野本はニヤニヤ笑いながら 「マイクタイソンが東京ドームで試合をする前に飲んだバファリンを一万円で売るから買えよ」  と言ってきた。手の中には真新しいバファリンの

          Re: 【短編小説】しあわせになりたい

          Re: 【超超超短編小説】ひどいひと

           原子爆弾が落とされて廃墟になった街で、ひとり生き残った男が瓦礫の中で立ち上がり、最初に発したそれがロックだと言う。  その言葉にならない言葉は、惨めで不細工で友達の居ない孤独な奴の救いとなるだろうか。 「とにかくイギー・ポップみたいな奴は死ぬべきだ」  だってそうだろ?  ジェームス・キャメロンだってそうさ。原子爆弾にそんなロマンチックなイメージを持つなら自爆すればいいんだ。 「あなたは酷いひとね」  ロックンロールが死んだ国の女は言った。 「君は林檎を持っているね」  

          Re: 【超超超短編小説】ひどいひと

          Re: 【超短編小説】落日の団地妻

           35-B棟の前にある駐車場に車を停めた。  階段を四階まで上がる。長い廊下に整然と並んだ部屋は、さながら細胞の様だ。  細胞。  ひとつひとつの部屋で人生が分裂していく。人生?精神の間違いでは?  そこに闖入するおれは癌細胞か?  415号室の前で立ち止まり、呼び鈴を押そうとしたその瞬間に、ところどころペンキの剥がれた鉄扉が押し開けられた。  顔を出した女は美しいと言うより欠点の少ない顔だった。  欠点の少ない顔。  例えば目と眉が離れすぎていないとか、目と目が近すぎない

          Re: 【超短編小説】落日の団地妻

          Re: 【超超超短編小説】ぼくの右眼

           やたらと声だけは大きい中古のセダンは武者震いをしながら通りを南下する。 「これが鉄の棺桶になるかどうかは自分たち次第だしね」  窓を開けると六月の風が入ってきた。  二度と出ることのない棺桶は子宮たり得ないだろうけれど、それなら火葬炉は最後の子宮と呼べるだろうか。  骨壷から出ることは、もうないから。  そう言えば、Y氏が眠っていた棺は何色だったろうか。覚えているのは彼の皮膚が冷たかった事だけで、色んなものが希釈されていくのをただ受け入れていく。 「わたし達は死ぬの?」

          Re: 【超超超短編小説】ぼくの右眼

          Re: 【超超短編小説】そういうもんだ

           会社に向かう途中、白い杖を持った女学生がバス停に佇んでいるのが見えた。  彼女がバスを待っていたのか、誰か降りて来るのを待っていたのかは分からない。  しかし彼女がそうして女生徒服を着用してひとり外出していると言う事は、彼女ひとりでバスには乗れるという事だろう。  要らないお節介をするべきじゃない。  だからバスが到着したとも言わなかったし、運転手にその旨も告げなかった。  俺はバスの座席に座って、バス停に立っている女学生を見ていた。彼女が別のバスを待っていたのか、それ

          Re: 【超超短編小説】そういうもんだ

          Re: 【超超短編小説】アルるの女の伽藍ドール

            「煙草、やめないの」  開け放たれたベランダの鉄扉に寄りかかって立つ女が俺に訊いた。  爆発した髪の毛と一体化した様なズルズルのXXXLサイズ黒Tシャツと、中学生が着る学校の芋ジャージより薄い生地の黒ジャージを引きずるようにして履いていた。  俺は焦げ穴だらけになったソファベンチから身を起こして笑う。 「やめるのをやめたんだ」  またひとくち煙草を吸ってから、短くなった吸い殻を転がっている空き缶に押し込んだ。  女は何か言いたげな顔をしていたが、やがて諦めたように灰色の

          Re: 【超超短編小説】アルるの女の伽藍ドール

          Re: 【短編小説】共同風呂トイレ付国営住居

           吉礼茅羅 腕時計(きれちら かしお、以下CASIO)は怒っていた。  それはインターネットで見る暇つぶしの義憤や、アカじみたお祭りの公憤とは違う。単なる私生活に於ける私憤だった。  CASIOはストレスでハゲ散らかしそうなのを、爆食でどうにか耐え忍んでいた。  今週の怒りは上石神井で始まった。  バスターミナル横にある雑居ビル一階に入っている不動産屋は、入るなり 「どう言った御用件ですか?」  なんて訊きやがる。  茶でも飲みに来たと思ったのか?  そんな担当の縦巻き髪ア

          Re: 【短編小説】共同風呂トイレ付国営住居

          Re: 【超短編小説】俺がアスファルトに咲かせた花を清掃車が洗っていく夜

           公園から伸びる遊歩道を少し行った先に、その桜はあるはずだった。  しかしその桜は切り株に化けており、腐敗で伐採したと言う張り紙が貼られていたので、俺とルス子はしばし立ち尽くす事になった。  確かにまだ桜の季節では無いし、その木がおれたちにとって思い出の何かと言う訳でも無い。 「まぁ、季節じゃねぇからな」  俺は世界を受け入れた。 「慰めになってないよ」  ルス子は抗った。  そう言うものだ。  そこから少し歩いた先にある、公園の傍に建てられた和風建築の旧い連れ込み旅館は、

          Re: 【超短編小説】俺がアスファルトに咲かせた花を清掃車が洗っていく夜

          Re: 【超超短編小説】栗鼠殺ing 会議

           薄暗い表情の男が出ていくと、部屋の中から 「次の方、どうぞ」  と言う、優しげな女の声が聞こえた。  俺は柔らかい椅子から立ち上がり、手の甲でドアを3度ノックした。 「失礼します」  と声をかけて、傷ひとつない漆黒のドアを引いた。ドアは音もなく開き、閉まる時も水面に葉を浮かべる様に静かだった。  急に男が現れたように思ったのも、このドアのせいだろう。  異様な空間だった。  どこまでも延びている様に見える板張りの床は、まるで巨大な武道場だった。  その板張りの先には巨大な

          Re: 【超超短編小説】栗鼠殺ing 会議

          Re: 【超超短編小説】花手水

           薄く青い空は、まるで落ちる気配がない。  がおん、と吹く風は境内の木々を揺すり潮騒のような音を立てた。  風の名前を思い出そうとしたが、白い薄膜が張ったように頭はのぼんやりとしている。  石畳に置かれた手桶には鮮やかな色彩の花が詰められていた。  その手桶を手に取ると、なんとなく、それは手水鉢に浮かべるものだろうと思った。  勘に従って手水鉢に花を浮かべていると、「こんにちは」と言って鳥居の前で一礼をしてから入ってきた女が、こちらに顔をむけて微笑んだ。  俺の手を離れ、冷

          Re: 【超超短編小説】花手水

          Re: 【超短編小説】胡蝶の羽ばたきhPaの夜

           風が吹いたので桶屋が儲かり、胡蝶が飛んで竜巻が発生した。お陰で制作部は残業になって、俺を含む幾人かの男女がオフィスで踊る羽目になった。  会社の金でタクシーに乗った俺は、同じ方面に帰る彼女が履いているダメージジーンズの穴に指とかを入れたりした。  東京に上陸した台風193号、別名ガウタマは「行けたら行くわ」と連絡した後に渋谷に来たので、街からは誰ひとりとして居なくなってしまった。  誰もいないスクランブル交差点はコンピュータグラフィックみたいだった。  俺たちは不機嫌なタ

          Re: 【超短編小説】胡蝶の羽ばたきhPaの夜