
Re: 【短編小説】PLAY
画面の中で0と1が濁流となってごうごうと流れていく。
また若い奴らが何か問題を起こしたらしい。内容は知らないし知る必要も無い。
ピープルは義憤とか公憤みたいな顔をして誰かの破滅を祝福する。
おめでとう、人間からの卒業だ。
おれはスマホを置いて目を閉じる。
歴史は繰り返すと言うがそのスパンが短すぎやしないだろうか。
コンテンツの速度は馬鹿の回転速度を上げてしまうのかも知れない。
現におれの瞼の裏ではまださっきの文字が荒れ狂ったように流れていく。
疲れた。
だが疲労は流れるどころか蓄積されていくばかりだ。
リセットなんかされない。
気づかないフリが上手くなるだけだ。
「明日はニューゲームじゃない」
「だがコンティニューとも思えない」
「思えないのは勝手だ、そう思うならそうなんだろ」
「おれたちの中では」
板についた独り言。
「独り言だと思うか?」
見えないフリ気づかないフリ。
「下手くそ」
後ろ髪を引く手を払い部屋を出る。
人生には足りないものが多過ぎる。
差し当たっては食う物が足りない。
買う金も心許ない。
空腹で足元も覚束ない。
運命の奴隷、それ以前に欲求の眷属。
定刻通りにシールを貼られていく惣菜の葬列に並ぶ愚者たちがおれたちの正体だ。
スーパーの店員が30%引きの上から50%引きのシールを貼っていく。
見切られた刺身たちがおれたちを見ている。
おれたちも見切られた刺身たちを見る。
相思相愛だ。単に味が薄いヤツらのそれだ。
だがババアたちは一味違う。
ババアたちは予めカゴに入れておいた寿司を店員の前に突き出してシールを貼らせる。
店員の疲労、諦めが溢れ出る。
ルールやモラルの欠如した空間。
ババアthe度胸。
ババアの反則行為を咎める人間は誰もいない。
ババアの為の読経。
ババアに聞こえないサイズの小さなため息をつく。
ババアは舌打ちをしてこちらを睨む。
「地獄耳め」
おれは口の中でモゴモゴを言う。
ババアにキレて殴れば動画に撮られてインターネットと言う名前の永遠を彷徨う。
H to the E to the E to the L。
だがそれも一晩だけのヒール。
どうせインターネットは次の話題に事欠かない。
さっきスマホで見ていたバイト先でやらかした若い奴らの話だってそうだ。
明後日には次の話題だ。
ひとの噂も72時間。
頭なんざ下げるだけ無駄だ。
いつまもインターネットなんかに入り浸ってるんだって言う話だ。
回り続ける話題。
ロシアンルーレットの銃口。
「いい歳をして安さが売りの回転寿司なんかに行くから駄目なんだよ」
いや、回っていたって良いんだ。
安さが売りの回転寿司屋で全自動の硬いシャリに半解凍の魚が乗っかってるんじゃあなくて、カウンターの中で職人が握ってるだけでいいんだ。
こんなスーパーの半額セールになった解凍されきっていない、なんの味もしない寿司なんか喰ってる場合じゃないんだよ。
こうやって人生の一食をまた無駄にした。
悲しくなるね。
なに笑ってんだ?
「見えてるじゃねぇか」
「あぁ、その通りさ」
人生で喰えるメシの数なんてのは決まっている。
それだってのにこうやって分かりきった失敗をして落ち込むなんて馬鹿げている。
「怠惰なんだよ、食事に対して。真剣さが足りない。想像力が欠如してるんだよ」
あぁ、その通りさ。
「どうせ風俗のホームページを見てても顔を隠した嬢に対するイメージをするのに飽きて適当に選んで失敗するタイプだろ、そうに決まっている」
あぁ、その通りさ。
全てその通りだよ。
おれはそうやって人生で決まってる射精回数を無駄にしている。
浴槽の中で天井の水滴を数えながら「あの時もうちょっと真剣に選んでたらな」とか考えてるんだ。
潜望鏡で見えるのは極楽じゃない、後悔だ。
自分の怠惰さだ。
「お前ら、人生をやり直せるならどうする」
バカッターをやった少年たちに訊く。
奴らは反省なんかしちゃいない、悪い事をしたとも思ってない。
「どうでもいいさ」
面倒臭そうに答えて金色の前髪をいじる。
おれは半額の寿司を叩きつけて蹴散らす。
そいつらはおれの可能性だ。
そうだ、おれだってやり直したい人生なんかない。
戻りたいセーブポイントなんか無い。
おれはクソだ。
人生はクソそのものだ。
さっきのメシだってやり直すにしても何を選べばよかったかも分からない。
ドロドロの油で揚げた半額の唐揚げか?
冗談じゃない、結局はそうやって人生の一食を無駄にするんだ。
この人生を遊んでいる時点でそうだ。
ちゃんとキャラクターを選んで遊べばよかった。
「あんなのは中高生が外食デビューする場所であって、ファミリーで行くところじゃあないんだ」
「ファミリーならファミリーらしく、もうちょっときちんとした寿司屋に、それもできれば回ってない寿司屋に行く方が良いに決まってるんだ」
そんな人生、あったのかよ。
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