【超短編小説】きのこ
学校と言うひとつの巨大な存在は、その内部で生徒という菌糸の様な存在が網の目状に広がって初めて生きていると言える。
茸類と違うのは、朽ちた廃校舎に生徒たちの様な菌糸は近寄らないと言う事くらいだ。
もっと言ってしまえば、学校を出て社会に出ると言うことは胞子となって飛び散ると言う事であり、つまり社会全体はひとつの巨大な群体生物であると言える。
おれとおまえに差など無く、つまり殆ど近親相姦なのかも知らない。
「そう思う?本当に?」
「いや、妹を抱く気にはなれないな」
「姉萌えだものね」
「無いものねだりさ」
左腕の上で転がりおれを見つめる眼はまるで、おれ全体を包む菌糸を伸ばしているようだった。
「今でも姉萌え?」
「28歳のお姉さんがいいな」
「中学生なんて食べる価値も無いわよ」
「可食部は多いがな」
おれにはまだ時間が必要だ。
なにか飲んで煙草を吸いたいが、もう寝てしまうかも知れない。
目覚める頃にはすっかりあの菌糸に包まれて、ひとつの巨大な茸類に変貌している。毒虫と茸類ではどちらがマシなのか。
「死ぬってことは、摘み取られるってことなんだよ」
痺れはじめた腕が腐って死んでいくのを想像する。死んだ茸類は腐った後にどうなるのだろう。
おれは自分の左腕が食われていくのを少し見てみたくなった。食まれた左腕はゆっくりと、繊維に沿って裂けていく。
裂目からおれの破片が飛び散る。
やがておへの部屋はおれの破片が飛び散ったところからおれが生えていく。
「誰に摘み取られるの?」
「何か、だよ」
「どうやって?」
「おれたちがキノコを取るみたいにさ」
「でも食べられるキノコなんてそうそう見つからないんじゃない?」
その通りだ。
可食茸類は簡単に見つからない。目につく、すぐに見つかる、そんなのは大抵が有毒な茸類だ。
だからそいつらがすぐに摘み取られることは無い。運悪く、何かに見つかった奴らから摘み取られていく。
おれは冬虫夏草が陰茎と似ているだとか、子宮はオニフスベかも知らないなどと余計なことを言いそうになるのを堪えて
「おれたちも摘み取られたら乾されるのかな」
と訊いてみた。
「それが走馬灯よ」
なにかは笑っておれの首筋を噛みちぎった。
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