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【小説】リイン花―ネーション

 生きる事は苦しむことだと考えている。だからもう二度と、生まれてくる事のないように。
「まもなく2番線に電車がまいります。黄色い線の内側までお下がりください」
 スピーカーから流れる音声を聞いている人間は何人いるのだろう。
 ホームの一番前、それでも黄色い線の内側に立つ。電車が軽い警笛を鳴らしてレールの上を滑りホームに入ってくる。誰も俺の背中を押したりしない。俺は電車の前に飛び出て死なずに済む。
 人間は案外と行動を起こさないものだ。
 それにしても俺は、と思う。
 世界が歪んでいるのは俺の罪の所為だ。物を盗んだり人を騙したりしてきた。小さい頃からクソガキだった。世界は正しいし、俺は間違っている。仕方がない。そうやって60億の歪みが世界を回しているのだ。でもそれは言い訳だ。つまりは俺の罪だ。
 そうやって一人で生きている気になるのもいい加減にしたい。
 だが誰も俺を突き飛ばしたり刺したりしない。
 そして俺が死ねないのには理由がある。あの世が満員なのだ。
 輪廻転生待ちの長い列があの世からはみ出してここまで伸びている。それが地獄か天国かは割とどうでも良い。
 誰も畜生道に落ちないように頑張って清廉に生きた結果として人間に生まれ変わる人間が増えた。畜生道に墜ちる人間が減る。そりゃあニッポニアニッポンとか秋刀魚だとかが減る訳だし、地球上に人類が増え過ぎる訳だ。
 動物愛護団体の奴らも積極的にイルカだとかに転生して欲しい。

 輪廻転生待ち、つまり人間転生待ちと言うのは人間に生まれたからには当然だろう。
 まぁそれでも先進国だとか途上国だとかの振り分けは転生希望者が多すぎて最近はもっぱら運だし、男女も金持ちか貧乏かもランダムなので次に転生人気があるのは猫だと言う。
 猫なら基本的にどうとてもなる、と思う。
 しかしそれも先進国の驕りかも知れない。猫を喰う文化もあるし、虐待されたり多頭飼育崩壊の憂き目に遭うかも知れない。

 転生するにあたって遊園地の人気アトラクションみたいな行列待ちが面倒になって他の動物に転生しちゃう場合もあるけれど、やはり魚は人気が無いと言う。
 徳を積む前に喰われるからだそうだ。
 魚が積む徳と言うのはどういうものか訊き忘れたのでわからない。ちなみに鳥はそこそこ人気らしい。江の島でメシを強奪する鳥は前世で独身だった鳥だと言う噂があるが真偽の程は定かじゃない。


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