Re: 【超短編小説】職場に於けるションベン社員の便器について②
夏の甲子園球児たちが流す涙より熱いションベンが亀頭から飛び出す。
男の安らぎ。
歳を取ると射精よりも気持ちいい。ただし、石が詰まってなければの話だが。
またひとり、便所に男が入ってくる。
見覚えはあるが名前を知らない別部署の男だ。喫煙所でも何回か見たことがある。
つまり向こうも、俺に対してそう言う認識だ。
そうやって顔をつきあわせながら男たちはビタミン臭えまっきっきのションベンを垂れる。
それが便所だ。
その男は、びしゃびしゃに濡れた便器の前に立とうとしてそのションベン汚れに気付き、出したままのものを仕舞わずに2つ隣の便器に移った。
これで少なくとも彼だけは、あの小便器を汚したのが俺では無いと知っている訳だ。
助かる。
俺の名誉が守護られる。
しかし彼が用を足し終え、仕事場に戻り
「実はトイレがションベンで汚れていたんだが、あの変な髪型の……ほら、目つきの悪い、彼がいてさ、いや汚したのは彼では無いんだけど」
などと俺の無実を証明する責任は無いので、あと2、3人が便所に来てこの状況を目撃して欲しいなどと願い始める始末だ。
来るのは清掃会社の人間でもいい。
さっさとこの状況をどうにかして欲しい。
便所で清掃員を見るたびに毎回思うのは、その清掃員が自分の母親で無い事には毎回感謝していると言うことだ。
その清掃員にだって子供や孫がいるかも知れないが、とにかく感謝している。
職業に貴賤が無いなんてのは嘘なのだから、それ以上に感謝をしなけりゃならない。
とにかく誰だっていいから早く来てくれ!
俺は終わりそうな自分の熱いションベンに願いをかける。
そもそも何故、こうも男子便所と言うのは汚れなければならないのか。
飛沫が悪い。短い陰茎が悪い。
便器から立ちのぼる臭いだとか、跳ね返り汚れを気にして便器から距離を取る奴がいるから垂れて汚すのだ。
手入れされていないチン毛が便器から生えているだけでもウンザリする。
男子便所はションベンで汚れたクソだ。
自分のションベンが汚いと思うなら、他人はお前のションベンをもっと汚いと思うのに、想像力の無い馬鹿はどうしたって存在する。
辛うじて、若かった頃の椎名林檎だけが使った便器なら舐めたって平気かも知れないが、人生はそうじゃない。
清掃会社の人に対する感謝を知らない阿呆が便所を汚したところで、そいつの母親がトイレの清掃員をやる事になる確率は低いだろう。
胸くそ悪い話だ。
ションベンなのにな。
それに便所、小便器というシステムが変わっていないのも悪いと言えば悪い。
単なる壁から水洗式になり、それが自動化されたとは言え、基本的な作りそのものは変わっていない。
巷では座りションベンなどと言う男の尊厳を奪うような排便スタイルが跋扈しているらしいが、労働現場の観点(経営者目線だっていい)から言えばいちいちドアを開閉してズボンを上げ下げするのはタイムパフォーマンスが悪い。
つまり、このままの形で何かが変化しなければならない。
やれやれ、ションベンが終わろうとしている(更に続く