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【小説】ズブロッカ★ぶすRocker

「ふえるわかめ」

 晩飯は蕎麦でもたぐろうと思い鍋に火をかけた。
 非常にだらしのない調理だなと思いつつ、小口に切った葱とばら肉も蕎麦と同時に投入した。触感などを考えれば別々に調理するべきなのだろうが、自分しか食べないのだから洗う手間を優先して一緒に茹でてしまうのが良い。
 冷蔵庫に入っていた乾燥わかめをひとつまみ入れたところで尿意を催してトイレへと向かった。一瞬、コンロの火を止めるべきか迷ったが買い物に行く訳じゃないし大丈夫だろうと判断した。
 トイレに入ると、便器の内側に付着した汚れが気になり薬剤で洗い流した。洗い流した直後にタンク内のボールが外れて水が止まらなくなってしまった。フタを開けてゴムボールの位置を直してからキッチンに戻ると鍋が増えていた。
 増えた鍋を前に増えた俺が困惑した表情で立っており、それをみてぼうっと立っている俺を増えた俺が後ろから押した。
 鍋の中には蕎麦と葱、ばら肉とわかめが躍っていた。
 増えた結果としてシェルターの様な枚数の窓を開けてどうにかベランダに出ると、マンションも月も地球も太陽系も銀河系も増えているのが目視できた。
 煙草を吸いながら七味の買い置きがあったかどうかを思い出そうとしたが、増えているんだろうから少なくても平気だなと思い直した。

***

「いぬ」

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