おもいやりを持って心優しくつましく生きてゆくか。差別を利用して勝って金持ちになって生きてゆくか? 台湾バブルに翻弄される1990年の台北庶民を描く映画 『老狐狸(オールド・フォックス‐11歳の選択)』。そして主題歌『鳥仔』
舞台は1990年、(大陸での文化大革命が瓦解し十余年が経ち、中国社会が大胆に作り直され、大陸北京では1989年天安門事件さえ起こりつつも、他方)、台湾は本土とは逆に「中華文化復興運動」を経て、1980年代後半からバブルに沸き立ってゆく。そんな台北で生きる廖平来(リャオ・タイライ)は端正な顔立ちのレストランの雇われ給仕長。息子の廖傑 (リャオ・ジエ)11歳とふたりで台北に暮らしている。ふたりは節約をして暮らし、おカネを貯めて、自分たちの理髪店を持つ夢を持っている。廖平来は昼間はネクタイを締め黒服に身を包み、銀のトレンチに料理を乗せ、ダイニングを颯爽と紳士として行き来する。夜更けに部屋へ戻れば、ひとりサキソフォンでバラードを演奏する。(その演奏はたいして巧くもない。)また、かれは足踏みミシンに向かって、息子の廖傑 のために服を作る。その仕事はていねいで規範的である。廖平来は道徳的で、人の心の痛みがわかる心優しい好人物、そのうえ美男子だ。まわりの人たちから好かれてもいる。ただし、おそらくかれはなんらかの弱さを抱え持ってもいる。また、廖平来の息子・廖傑への愛は、ひじょうに母親的である。
11歳の廖傑 (リャオ・ジエ)は、給仕長の息子ゆえ、ときにはレストランのバックヤードで宿題を片付け、スタッフから飲茶をふるまわれたりして、みんなに愛されている。もっとも街には3人のいじめっ子もいて、かれは「おまえのとうちゃんのラッパ、うるせーよ」といじめられたりする。また父親が作ってくれた半ズボンをだッせーな、とからかわれたりする。
かれらの夢(自分たちの理髪店を持つ夢)は間近に実現しそうに見える。しかし、時まさに1990年、バブルの真っ盛り。不動産価格はどんどん上がってゆく。物価も家賃もまた。廖平来が理髪店を持てるかにおもえた夢はまたぞろ遠ざかってゆく。バスタブに貯めた湯も、使い終えて栓を抜けばからっぽになるように。
その街のドン、謝という苗字の老人は、老狐狸(オールド・フォックス)と呼ばれている。貧乏人の子として生まれながら、苦労して這い上がり、現実に精通し、この街の大土地持ちになりあがり、巨万の富を持つに至ったダンディな老人である。老狐狸は、自分の店子の子である11歳の廖傑 (リャオ・ジエ)に、かつて貧しくあどけなく無邪気だった自分自身の姿を見る。老狐狸は、廖傑 に生きる知恵をさずける。「この世界は勝ち組と負け組でできている。勝ち組とつきあえば、勝ち方を学ぶことができる。他人への同情を断ち切れ。負け組とつきあえば一生負け組だ。この世界は差別的だ。しかしこの差別を利用して、勝ってゆけ。」
11歳の廖傑 の心は、父廖平来(リャオ・タイライ)の心優しい人生観と、この老狐狸(オールド・フォックス)のリアリズムな人生観のあいだで揺れ動く。つまり、善人として生きることとカネ持ちになりあがることの間には最も遠い距離があり、かつまた両者の人生観は非和解的なのである。果たして、少年はいったいどちらの人生観を、あるいは第三の人生観を選択するだろう?
この映画のなかでは、他人におみやげとして軽食をふるまう場面が多い。おもいやりの循環のように。
夜更けの、雨あがりの濡れた道を親子ふたりがそれぞれ自転車を漕いでゆく。濡れた道が夜の光にてらてら輝いている。
鳥仔 - 老狐狸電影主題曲 動力火車
飛 疲憊地飛行 像不曾休息
夜 求生若死 拼命 等待生機
天 慈悲若無情 破殼的生命
想 編織出一個家 多渴求 多無力
天 等袂到日頭 煞烏暗
夢 若是割心肝 你甘有膽提去跋
飛 為著有一工停靠 相依相倚
飛袂到的未來 揣無希望 看破
嘿!嘿!嘿都一隻鳥仔哮啾啾 嘿荷
哮到三更一又半暝找無巢 荷嘿荷
嘿!嘿!嘿都一隻鳥仔哮啾啾 嘿荷
哮到三更一半暝找無巢 荷嘿荷 荷嘿荷
命 判官的無情 落袂煞
目 一就變卦 半暝心內哮出聲
阮 這種艱苦人註定 無彼款命
霜風無情吹過 弄家散宅 無望
飛 麻木地飛行 沒力氣休息
夜 求生若死 如何 直視悲劇
天 慈悲也無情 被動的生命
淚 奈何不了宿命 落地
監督:萧雅全(Ya-chuan Hsiao。)制作:侯孝賢。(ホウ・シャオシェン。Hou Hsiao-Hsien)音楽:侯志堅(ホウ・ジージエン、Chris Hou)。2023年製作/112分/G/台湾・日本合作。
侯志堅(ホウ・ジージエン、Chris Hou)さんは1967年生まれ。CMや映画音楽で大活躍中。