この世界に料理は3種類しかない。おいしい料理。まずい料理。おいしい料理に似せた怪しげな料理。それだけだ。
しかし、どうやらそういうふうに料理を考える人はそれほど多くないようですね。それどころか世の中にはフランス料理、中華料理、インド料理、ヴェトナム料理、タイ料理、韓国料理、イタリア料理・・・まるで違った料理体系が地球上に山ほどあるかのように認識している人がとても多い。しかし、そういう態度ではたとえ十回生まれ変わったとしても料理のことはなにもわからないでしょう。
実は調理について知るべきことはそれほど多くない。たとえばサツマイモを、煮る、蒸す、焼くでは糖度が違うこと。窯焼きのピザやナン、タンドリーチキンのおいしさの理由は加熱方法と高温によるものであること。塩使いに感受性を持つこと。肉を焼きあげるにあたって、高温と低温を使い分け、温度が下がるときにこそおいしさが深まることを実感すること。はたまたグリルパンで肉の切り身に焦げ目の筋をつけて焼くとき、そのわずかな焦げ目がおいしさを引き立てることに気づくこと。ソースに着目して世界中の料理を考察してみること。大事なことはおおよそそのくらいで、他はすべて知りたければ知ればいいし知らなければ知らないでかまわない各論である。
よくありがちなまちがいは、たとえばインド料理をなにか特別に神秘的な調理体系だと誤解する人は多い。しかし、それはその人がスパイスの使い方に慣れていないだけのことで、実はインド料理とて、大事なことはむしろ前述のような調理知であって、スパイス使いはそれら調理知に従属した風味の演出技法に過ぎない。したがって、たとえばすでに中華料理やイタリア料理をマスターした人であれば、インド料理を学ぶことはそれほど難しくない。逆に、最初にインド料理を学ぼうとすると、調理の基本ができてない上に、スパイス使いも覚えなくてはならず、なかなか上達しないもの。
自分にとってなにがおいしいか、なにがおいしくないか、それがわかっている人は、ぼくのこの意見に賛同してくださることでしょう。
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