仏像の役割
NHKブックスのロングセラーに「仏像-心とかたち:望月信成、佐和隆研、梅原猛著 昭和40年第一刷」があります。この本では、仏像の見方として
1.仏像を対象とした叙事詩を見る
2.仏像の様式美を鑑賞する
3.仏像の背後にある精神を観る
と言う、三つのアプローチの内、特に背後の心に迫ろうとしています。
私は、この試みは大事だと思いますが、もう一つ
・仏像が造られた時代を考える
と言う点で、踏み込みが浅いと思いました。
ここでは、日本に仏教が伝来した飛鳥時代から、奈良時代そして平安時代を中心に
1.なぜ仏像が造られたか?
2.仏像はどのように使われたか?
について、考えていきたいと思います。ここで大切なことは
現在ありふれているモノがない
と言う状況をきちんと理解することです。具体的に言うと
紙は貴重品
病院や薬などの医療環境はない
を納得しないと、仏像の働きは、解らないでしょう。
それでは紙が貴重品と言う証拠はどこにあるのでしょう。一つは、奈良時代の役所跡からでる、多数の『木簡』つまり、木片に書かれた記録です。私達は、西洋のパルプによる紙の大量生産による恩恵を受けて
メモ紙
を使い捨てていますが、和紙の生産技術が確立した、江戸時代でも
和紙のリサイクル
がきちんと行われていました。和紙の製造は、飛鳥時代から行われていたようですが、大事な経典を記述するなどに使われていました。
そうした状況を考えると
仏像は多くの人に仏の教えを伝える手段
として、有力なモノでした。仏の特徴としての三十二相八十種好は、仏の力の一つ一つを伝えています。
私達は、文字を使う文化になれているので『慈悲』などを、言葉で説明されるのが当然と思っています。しかし、紙が貴重品である時代には、大衆に仏の教えを説くときは
仏像を前にして、仏の姿や持ち物が、象徴している働きを伝える
方法が有効だったと思います。
さて、奈良時代など二は、多くの『薬師如来』の像が造られています。
これは、当時の医療状況を考えると
疫病が流行ったら神仏に祈る
ぐらいしか、支配者ができることはありません。そのように考えると
薬師如来像
を造ることは、支配者にとって
大衆のための行動
として大事な仕事だったと思います。
なお、平安時代になると、紙も少し入手が楽になります。
そのような環境で
弘法大師空海が曼荼羅
を広めます。彫り物より、絵の方が描きやすい、これは紙が手に入るときに言えることです。
こうした、メディアの変化が、情報の伝達を変えることは、現在の私達も経験しています。私のような、年寄りは、文字で書くことになれています。しかし現在の若い人は、画像や動画でSNS上で交流しています。こうしたメディアの変化を加味して、仏像を考えることもできるでしょう。