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映画 碁盤斬り
映画にしても読書にしても、その感想文を書く事自体は好きなのですが、こうして公開することには二の足を踏みます。
伝えたい事を書こうとすれば、内容に触れずにはいられないからで、どうしてもネタバレ満載になり。
それで分かってしまったら、封切り直後の作品であれば、鑑賞を誘う目的には逆効果にもなってしまいかねない。
そんな事を考えているうちに、書かずに終わってしまうことも多いです。
私自身は、結末が分かっていても、見たいと思う事もあるので、きっと無意味ではないだろうと思い、書いてみることにします。
Xの字数制限が思いのほか短かったので、ここに書きます。
私は草彅さんのファンだから、その演技だとかいうことになれば、賞賛しか出てきませんし、事実、作品を追うごとに唸るほどの演技を目の当たりにしています。
碁盤斬りでは、後半へ進むにつれ、凄みを増していく辺りが圧巻です。
そして、話が展開する直前の、この映画内での陽の頂点だと私が思うシーンの柔らかい静けさに、胸の内からジワーっと涙が滲み出てきました。
実際は目からですよ。
でも、胸の内側から出てくるのです。
その静けさの中に、展開後の乱の予感が既に含まれているっていう事が、どうしてそう表現できるのかが、謎なほどに素晴らしい俳優さんだなと思います。
ストーリーの前後をあまり把握していないとおっしゃっていたけど、あれはどうなんだろう?と思います。
私はほとんどストーリーを知らずに鑑賞しましたから、あの時点で哀を感じたのは何故なのか、それがセオリーだからなのか…
それが今でも強く印象に残っています。
そのシーンとはどんなもの?と気になって頂けた方は、ここから先を読まずに劇場へ向かっていただきたいと思います。
※
古典落語を題材にしたということで、やはりその落語がどんなものか、どの程度沿っているのかというのは気になりました。
鑑賞後に落語をご覧になったという方も多く散見されました。
劇場におじさんが多いらしく、確かに私が行った時も、ご高齢の団体さんがいらっしゃいました。
草彅さんの映画って、色んな世代、層の方がご覧になることが多い気がします。
ミッドナイトスワンもでしたが、日本沈没の時もおじさんが多いなぁと思った記憶があります。
今回も、落語や囲碁を嗜む方々の関心を惹いているのでしょうね。
そういう方々も満足する映画だと思います。
さて、ここからは私の目線での感想になります。
少し哲学っぽくなると思います。
私は映画には精通していませんで、監督さんがどんな方かもよく知らず…
少し調べてみたら、アウトロー的な作品を手がける事が多い監督さん、という印象でした。
合っているかどうかは分かりません。
であるならば納得なのですが、人間の心の奥のヒダをえぐるように描き出されていると思いました。
いよいよ仇討ちの相手である斎藤工さんと対峙するシーン。
斎藤さんの告白によって宙に浮かぶ真実のストーリー。
いかに、白黒つける事によって安心感を得ているのかと、自己を振り返ることとなります。
その瞬間の私の思考回路の慌ただしさを見せてあげたい。
(えー?だったら…えー!?あれがそう?あれはどういうこと?えーーーー※△×○△※※???!!!)
ストーリーの中に投げ出された私は、どこにどう着地すればいいのか、完全に見失ってしまいました。
白黒つけたいのよ、きっと私。笑
その後、胸を撫で下ろすことになるのですが、その碁盤をぶった斬ることになるわけですね。
そこには、人情、愛が裏打ちされて。
泥沼から咲く蓮の花を連想しました。
そして安住したい私の欲望は見事に打ち砕かれ、格之進は立っていく。
ああ、崇高に哀しい。涙。
なんだそれ。涙。
でもそれ以外に落とし所がない事を思う。
草彅さんが高倉健さんから、件の時にお手紙を受け取ったお話をされました。
それを思い出して、「あなたへ」のストーリーを見返してみました。
旅と放浪の違いに触れるレビューが複数ありました。
帰るところがあるのが旅、ないのが放浪。
格之進は浪人でした。
それを貫いたのですね。
それが格之進の武士道だったのだと思います。
哀しみに折り合いをつけることができました。
娘との決別を決意したのはきっと、娘が家を出た時からだったのでしょうね。
仇討ちの決行を腹に決めた時でもある。
修羅の道。
放浪の身。
時代劇は好みではないし、草彅剛さんが主演でなければ見ることはなかったです。
こういう映画を草彅さんが演じる事によって、何かを感じ取る人が増える事に意義があるのだと思います。
だから、おじさんにも頑張ってもらいましょう😁笑
見ている途中で、凄みを増すお侍さんを、「あれ、どっかで見た事あるなこの人、誰だっけ???」
ずっと頭からそれが離れず考え続けていたのですが、もしかしたら、映画「蒲田行進曲」の平田満さんのヤスだったかも。
え?
草彅さんの蒲田行進曲、見れずじまいだったのですが、あれ?と。
初耳学でのお話を見ていて、この疑問は満更でもないのかも?と思うようになりました。
格之進とヤスの人物像の中に、似ているものがあるのかもしれないですね。
生きる道の上で、悔しさや憤りをどう昇華させていくのかを、とことん考えさせられる作品群と言えます。
草彅剛さん
自己を超越する役者さん
と言っても過言ではない俳優さんではないかと思います。
その蒲田行進曲が見たいです、できれば当時のものを。
“おいごばん”はストーリーを追わずに見てみたいと思っています。
また違う側面を。
【追記】
まだ時々読んでくださる方がいるので、補足します。
正誤で言えば、上記の映画鑑賞後の感想は間違いです。
でも映画のみを観て思った事を、そのまま残しておきたいので、追記としました。
映画を観た後、小説を読みました。
映画を補足するような部分もありました。
格之進の人物像も少し印象が変わるかもしれません。
そこは私の草彅さん贔屓が影響しているだろうと思うのですが、もう少し融通が効かない性分が強調されていたかなと思います。
そうでなければ、あんな大事には至らないのですから、当然ではあります。
1番の違いはラストです。
小説にはその後の格之進が描かれています。
そうすると当然、あのエンドロールで歩いている格之進への想いも変わってくるのです。
今あのシーンを思い返すと、あの時とは違った印象になります。
それはやっぱり、格之進のもつ正義感を良い意味で感じさせる足取りだったんだなと。
自身のもつ性分が引き起こした騒動を超えたうえで、やはり削られない自分らしさが前へ進む力を生み出している。
あの足取りに、そんな事を感じています。
生まれ変わった格之進は、騒動前より幸せになったのだと思います。
Blu-ray・DVDが販売されました。
特典付きには台本が付いていたそうで、より確かな格之進の心情を知る事ができたのかなと思います。
この一年を振り返ると、過去一エンタメに明け暮れました。
勢いがすごくなかったですか?
私の意識が向いた先がそこだったのですが。
そして今は、色んな意味で前進したいと望んでいます。
碁盤切りが公開されたこの2024年。
もしかしたら、私の転機の年になったのかもしれないと思います。
後年、そう思える自分でありたいと思います。
うーん、ちょっと違うかな?
混沌から抜け出す光が見え始めたという感じかな。