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「未来への周遊券」を読んで

数年前、岩田書店の「一万円選書」で本を選んでいただいた。
瀬名秀明さん・最相葉月さんの「未来への周遊券」はそこに入っていた1冊だった。

私は読書が好きだけれど好んで読むのは小説が多く、ノンフィクションやエッセイはようやく最近少し読む程度。そして文系なのもあって物理系の本はなかなか手に取ることがなかった。
この本をパラパラとめくった時の第一印象は「難しそう」で、その印象の結果読むまでにかなりの年数が経ってしまった。

読んでいる最中から読了後、感想は「とてもすごい本に出会ったかもしれない」でした。

新聞を読まないものでこの本の企画も知らなかったのですが、
2008年4月から2009年10月まで、産経新聞科学欄で連載された瀬名さん最相さん両名の手紙形式でのやりとり(産経新聞 往復書簡シリーズ)だそう。

読んでいる今は2025年なので執筆当時からするとまさに「あの頃の未来」にいる私が当時のお二人の言葉を読んでいる形。
そして私は2008−2009の記憶は鮮明とは言わずともあるので、若田飛行士の話やはやぶさなどそういうこともあったと懐かしく思いながらも自身の知らない分野のお二人の話は鮮烈で、お二人の目を通したあの年を読むという体験でした。

「未来への周遊券」
連載形式なので、見開き1ページが1つの話でまとまっているので読みやすい。
そして往復書簡なので、次の一編は全ページの内容を緩やかに受けながらもまた新しい話題へと開いていく。
物理や科学に親しみのない読者にも抵抗感なく届くお二人の言語化の高さがすごい。
一編ごとに「それ気になる」が散りばめられていて、興味のかけらを追おうとするとまた新しい興味のかけらが出てくるよう。
まさに「未来への周遊券」、この本にはそんな好奇心くすぐる券がたくさん含まれていた。

中でも印象的だったのは、瀬名さんの飛行の描写。

ある研究者に「飛行機の物語を書くなら、飛行機ぐらい操縦できるようにならないと」といわれ、それもそうだと思って免許を取られたとか

最相葉月「ストリートビューに運ばれて」…未来への周遊券より

ここを読んだ時私も「桁違いの行動力!」と全く同じ感想を抱いた。
そして瀬名さんの目を通して飛行機から見る雲の流れ、気象、大気の関係を読むのはとてもわくわくした。

この本は雷の発光現象(スプライト)の瞬き、空を飛ぶという視点やロウソクの観察、伝統園芸の嫋やかな美や皆既日食の二分間などさまざまな景色を見せてくれて、
星新一やサン=テグジュペリ、HAレイやシャルガフなど読みたい、読み返したいと思う本に出会わせてくれた。

私の読み方のくせでもあるけれど、今回はまず一通り読もうと気になるところで止まらずにざっと読み切っただけなので、理解も知識も全然足りていないと思う。
いつか、またじっくり時間のある時に巻末のブックガイドに掲載されている本を読みそしてこの本に戻って瀬名さん、最相さんの話に目と耳を傾けたいと思っている。

この本に綴じられていたたくさんの切符、間違い無く受け取りました。

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