不機嫌な友人に切られたら、字が上手くなった件
タイトルからして、何を言っているのか分からないと思う。我ながら、未だによく分かっていない。
そんな#想像していなかった未来の話をしよう。
Sという不機嫌な友人の話
Sは1歳年上の友人だった。共通の趣味を持ち、わたしのことをよく褒めてくれ、非常に好意的に、またちょっと拘束的に接してくれた。その程度たるや、遠方からSと遊ぶためにやってきたわたしの旅行日程をまるまる拘束し、「ずっと一緒にいて遊びたい!」と言うぐらいだったと言えば、少し伝わるだろうか。
Sとは何度も遊んでいてお互いによく見知った仲であり、わたしはよき友人だと思っていた。共通の趣味を抜け出して、例えば一緒にプライベートのお買い物に行ったり、旅行に行ったりできればどんなにか楽しかろうと思った。
しかし、その日は遠征して遊んでいる途中、突然やってきた。
Sは遊んでいる途中、唐突に不機嫌になった。きっかけなど何も分からない。困惑するわたし。
予定はドタキャンされ、遊ぶ最中も態度が悪く、本当にどうしていいか分からない。
旅行の最中だったため、友人の豹変にしょんぼりして帰路についたことをよく覚えている。
帰路についた後もよくLINEのやりとりをしていた。機嫌はいくぶん直ったようだったが、それでもなにか以前と違うものを感じていた。
あるとき、わたしは仕事で上手くいかないことがあり、Sに弱音を吐いた。Sは「あなたは抱え込みすぎだ、もっといろんな本音を聞かせてくれ」と言った。その言葉が心底嬉しかったわたしは、ついつい甘えてSにたくさんの思いの丈を話した。
それが全ての終わりとも知らずに。
弱音を吐いた3日後、SからLINEが来ていた。
「あなたは重い 疲れた 合わなくなった」
そうして、全ての繋がりをブロックされていた。
転がり出る運命
ショックでたまらなかったわたしは、Sとの思い出の品を全て処分した。
心の整理がどうしてもつかず、仕事も少し休んでしまったぐらいだった。
家で呆然としながら部屋を片付けていたとき、一本の万年筆が転がり出てきた。自分の誕生日祝いに、気に入って買った万年筆だった。久しく使っておらず、ペン先もコンバータの中身も乾いていた。
ふと思い立って、わたしは久しぶりに万年筆にインクを浸し、そのとき心の内に抱えていた思いをノートにありったけ、万年筆で書き殴った。
書いて書いて、書きまくった。
その中で、Sの言葉を思い出した。
「わたし、悪筆なのがコンプレックスなんだよね。字を上手く書ける人が羨ましい」
「字、上手くなったろ」
完全にあてつけである。
わたしはこの万年筆で、自身の字を上達させようと突発的に思ったのである。
そもそも、わたしの字は汚いと言われたことはない。むしろ、読みやすいと褒められることが多かったぐらいだ。しかし、手習いのようなものは学生時代の習字の時間きり(名前の漢字が画数が多いので、小筆で苦戦した思い出つき)である。
Twitter上で、所謂「書写垢」があるのは知っていた。お題を出すアカウントをフォローし、お題を書いて、互いに鑑賞する。鉛筆で書いても、万年筆で書いても、ガラスペンで書いてもいい。チラシの裏でも、上質紙でも、手帳のすみっこに書いてもいい。すべて当人の自由な世界で、憧れがあったのだ。
早速万年筆でチャレンジしてみるが、他の方と違って丸くてころころした字しか書けず、ちょっとコンプレックス。
このとき初めて、「字を上達させたい」と思ったのだった。
字を練習して180日
皆さんは「日ペン」をご存知だろうか。検索すれば簡単に出てくるが、所謂ボールペン習字の通信講座である。一万円のキャッシュバックにもつられ(修了時に二万円になっていて崩れ落ちるのは先の話)、意を決して申し込んだ。
その後、テキストに従い課題をこなし、約半年で講座を修了。その頃には、楷書も行書も以前よりずっとずっと上手くなっていた。
多くの友人に囲まれる毎日がやって来る
Twitterで書写の投稿を始めてから約1年半が経つが、今ではたくさんのフォロワーさんに恵まれ、たくさんの書写を拝見する機会も増え、幸せにSNS生活を楽しんでいる。
フォロワーさんは全員友人だと(勝手に)思っている。多くの友人の書写を見て、自分の書写も見てもらって、互いにいいねいいねと言い合い、時にはお題とは全く関係ない物理的なつぶやきも楽しんで見ていただき、こんな楽しい日々が訪れることになるとは、Sが突然離れた悲嘆に暮れながら転がり出た万年筆を眺めているときには想像もできなかった未来なのである。
Sに伝えたいこと
Sに突然縁を切られ、悲嘆に暮れたことでわたしは字や書写という新たな趣味を手にし、有り難いことに多くの友人に恵まれ、また友人の写真集に使う付録や題字の執筆を任されることが増えた。
まだ悪筆を気にしてるなら、練習してみてもいいかもよ。
未来、変わるかもしれないよ。