果たして世界中の人々は、幻想を取り戻そうとしているのだろうか?
この現代という時代において最も致命的な問題とは、意味というものが存在しないことなのではないかと思われます。これは、解釈するのが難しいことです。というのも、そもそも意味とは何なのかについて、理解しなければならないからです。ただ意味について言えることがあるとすれば、意味があるということと意味がないということの、線引きをすることができるのではないか、ということです。そこで重要になってくるのが、その意味を果たして理解することができるかどうかです。意味があれば、理解できる可能性があります。意味がなければ、そもそも何も感じないし、理解するということすら生じません。しかし理解することができれば、あるいはその意味を自らに取り込み感じ取ることができれば、それを人々と共有することができるからです。それによって生じるのが、幻想です。幻想は確かに人間が作ったものなのかもしれませんが、そこには確かな意味があります。ひとまとまりの意味があるからこそ、人々はそれを互いに理解し、共有することができるのです。これが、共同体というもの、国家というものの基盤なのではないでしょうか。
しかしこの現代においては、意味というものがそもそも存在しないように思えるため、共同体や国家の基盤そのものが危機に瀕しているように思えます。その代表例が、アメリカです。一体アメリカ人は、何を信じているのでしょうか。どのような幻想を自らの信念にしているのでしょうか?あなたはおそらく日本人なのですが、あなたはそのことにはっきりと答えることができるでしょうか?答えられないのではないでしょうか。ここにおそらく、アメリカにおける深刻な問題があるように思えるのです。news picksという配信サイトにおける、weekly ochiaiという番組に出演していた先崎彰容さんが述べていたのですが、もともとアメリカ人の絶対的な自信の基盤になっていたのは、アメリカにある大自然との接触だったそうです。しかしやがてその接触も薄れてしまって、さらにはアメリカの共同体の基盤となっている教会の集まりすらも崩壊しつつあり、人々が拠り所とすることのできる共同体がなくなってしまっているようなのです。さらに移民の流入によって、そもそもアメリカという国家によって包み込まれることのない第三の人々が存在するようになって、アメリカは今では何が何だかよくわからなくなってしまっているようなのです。アメリカが一体何を信じているのか、よく分からなくなってきたのです。つまり、アメリカにおける幻想は無くなってしまった可能性が高いということです。その根拠が、トランプ大統領の台頭ではないでしょうか。この人物は過激な言説を繰り返すことによって人々の支持を集めていきました。その言説の中に、アメリカにおいて幻想というものが失われてしまったことへの落胆を癒やす、何かしらの意味が含まれているのではないかと自分は推測します。そしてトランプという人間が醸し出す、幻想のようなものに、人々は飛びついている可能性が高いのです。このような現象は世界中の他の様々な国でも見られるようなのです。とにかく過激な党派が台頭してきています。これは、過激なものが醸し出す何かしらの人間的な意味、つまり、ある意味における幻想というものを、人々が取り戻したいと思っているということなのではないかと、自分は思うのです。人々はもはや、信じるものが何なのかもわかっていないし、そもそも信じるものが何もないのです。
こうして、意味や幻想というものに期待することができない時代において、私たちはどうすればいいのでしょうか。おそらくなのですが、個人的な経験から言わせてもらえば、意味や幻想といったものを、自ら創造することなのではないかと考えられます。意味や幻想がないのであれば、それらを自らの人間的な力でもって、作り出せばいいのです。こうすれば、意味とか幻想などといったことが、個人的な問題になります。これはあくまで個人的な問題なのです。すでにある何かを信じることが難しいのであれば、自ら信じるべきものを作り出せばいいのです。それに対する努力こそが、この時代に求められていることなのではないでしょうか。ちなみになのですが、最近生成AIが劇的に発達しているものの、正直なところ、AIには意味も幻想も創造することができません。なぜなら、AIが生成するときにやっていることとは、すでにあるデータを混ぜ合わせることだからです。自分なりに新しく作り出すことは、やはり私たちにしかできないことであるし、これから先率先してやるべきことなのです。創造の過程こそが、この現代における、意味というもの、幻想というものがそもそも存在しないという深刻な問題に対処するための、有効な鍵なのではないかと思われます。これは非常に難しいことではあるものの、やってみるしかありません。