【小説】病院ねこのヘンナちゃん⑬(episode1)
ひとつ前のお話→病院ねこのヘンナちゃん⑫
最初から読む?→病院ねこのヘンナちゃん①
「HSPは人一倍、感覚が鋭くて、不必要な情報も全部拾ってしまうの。だから神経がとても疲れやすい。
たとえば楓子さん、人混みが苦手なんじゃない?」
「ええ。外出すると、たいしたことをしていなくても、ヘトヘトになります。人に酔ってしまうというか…。デパートや駅は特に苦手です。
音楽は好きですが、コンサートホールの人混みを考えると、行くのが億劫になります。」
「そうだよね。人の感情をすぐ読み取るってことは?」
「ああ、それは。部屋に入った瞬間、相手の機嫌の善し悪しが分かります。」
「不機嫌な人のそばにいると、自分が原因じゃないかと思っちゃうでしょ?」
「なにか悪いことしたかしら…と、ずっと気になりますね。」
「そしてやっぱり疲れちゃう?」
「すごく居心地が悪くなって、胃がキリキリします。」
「たくさんのことを、一度にするのは嫌いだよね?」
「そうですね。スケジュールがぎっしり詰まっている日は、朝から憂鬱です。」
「人が嫌いなわけじゃないけど、一人になる時間が必要でしょ?」
「ええ。リセットする…というか。
親しい友人と旅行をしても、部屋はシングルの方がいいです。」
ヒヨコ先生がずらずら並べる条件に、楓子さんはみんな思い当たる節があるようだ。
でもHSPって、なに?病気なの?
「先生…これって。」
「うん、可能性は高いね。
でも心配しないで。HSPは意外とたくさんいるのよ。
5人にひとりくらいは、貴女と同じ生き辛さを感じているの。」
それからヒヨコ先生は、HSPについて説明した。
ハイリー・センセティブ・パーソンは、アメリカの心理学者・エレイン・アーロン博士が1996年に提唱した、比較的新しい概念。
HSPは外界の刺激や体内の刺激に、極めて敏感に反応する。
ここでいう刺激とは、音や光や臭いから他人の感情まで、日常生活を送る上で切り離すことのできない、あらゆる感覚情報のこと。
普通の人がスルーすることでも、HSPはいちいち感じ取り、反応してしまう。
たとえばエアコンの音が気になって眠れない、太陽光が眩しすぎて頭痛がする、他人のネガティブな感情に触れると体調を崩すなど、HSPはただ生活するだけでも、刺激に反応しすぎて疲れる。
HSPではない人は、感覚が違うこと自体が分からないので、HSPの辛さを思いやることが難しい。
自分はどうして人の言葉にこんなに傷つき、相手にどう思われるかが気になり、人と比較して落ち込みやすいのかと、HSPは人知れず悩んでいる。
ヒヨコ先生は、スマホでHSPのセルフチェックリストを呼び出した。
「これ、ちょっとやってみて。」
楓子さんは差し出されたスマホ画面を食い入るように見つめた。
1.周囲の微妙な変化にすぐ気づき、空気を敏感に読む
2.相手がどういう気分なのか、気になってしかたがない
3.人にどう思われているか、とても気になる
4.人と話しているとき、つい言葉の裏を考えてしまう
5.人見知りで、初めて知り合った人となかなか慣れない
6.ひとりでいるのが苦手で、誰か頼れる人がいてほしい
7.体を触られるのが苦手
8.人前で仕事をするのは、集中できないので苦手
9.おなかがすくと、集中できなくなる
10.間違いを指摘されると傷つき、なかなか立ち直れない
11.約束をすると、とても気になって落ち着かない
12.カフェインに敏感で、お茶やコーヒーを飲むと眠れない
13.においや味などの好みが強く、苦手な食べ物も多い
14.忘れ物やミスがないか、何度もチェックする
15.他人に対して、とても良心的だと思う
16.ちょっとしたことにも、すごくびっくりする
17.大きな音がとても苦手
18.明るい光や交通音、時計の針の音が気になって眠れないことが多い
19.動揺してしまうような状況をなるべく避けている
20.想像力が豊かで、空想にふけることが多い
21.美術や音楽が大好きで、人より感動するほうだ
22.勘がいいほうだ
23.痛みに敏感
24.暴力的、残酷なシーンのある映画やテレビは見ない
25.短い時間に多くのことを同時にするのは苦手
26.生活に変化があると混乱し、落ち着くまで時間がかかる
27.人前で話すのが苦手で、プレゼンテーションなどで緊張する
28.肩こりや頭痛をよく感じる
29.ストレスで胃が痛くなることがある
30.子どもの頃に、親や教師から「内気」「神経質」といわれていた
これは精神科医の保坂隆先生が、アーロン博士のチェックリストを元に、日本人向けに作成したリスト。
イエスが20項目以上であればHSP、10~19項目であってもその度合いがひじょうに高ければHSPの可能性があるんだって。
ひとつひとつ慎重にチェックしてみると、楓子さんのイエスは実に23項目にのぼった。
「…先生。」
楓子さんは、どうしようというような不安な表情を浮かべた。
出典:敏感すぎる自分の処方箋/保坂隆著(ナツメ社)