理想論だけど、それを語らずしてどうすんのとも言える?:読書録「本を守ろうとする猫の話」
・本を守ろうとする猫の話
著者:夏川草介 ナレーター:櫻井慎也
出版:小学館(Audible版)
「スピノザ診療所」が面白かった。夏川草介さんの作品
「神様のカルテ」シリーズは知っていたんですが、それとは違う毛色が変わった作品のようなのでチョイスしてみました。
高校生の夏木林太郎は、書店を営む祖父と二人暮らしだったが、突然祖父が亡くなる。
伯母に引き取られることになり本棚の整理をしていた林太郎の前に、人間の言葉を話すトラネコが現れ、「本を助ける冒険」に彼を連れ出す…
ガチなファンタジーでした。
主人公が猫に導かれるのは4つの迷宮です。
蔵書として閉じ込められる本(第一章 第一の迷宮「閉じ込める者」)
あらすじや速読で切り刻まれる本(第二章 第二の迷宮「切りきざむ者」)
内容の薄い売れる本だけを次々と出版する出版社(第三章 第三の迷宮「売りさばく者」)
まぁ、現代社会においても、何やら想像がつく本との向かい方です。
「本を愛する」と言う切り口から、主人公は迷宮の主人から本を解放するのですが、最後に「本そのものの存在意義」をめぐって、最後の迷宮に立ち向かうことになります。(第四章 最後の迷宮)
う〜ん、甘いと言えば甘いし理想主義的すぎると言えば理想主義的すぎる。
まぁそれは「スピノザ診療所」もそうでしたが、
もちろん作者はそんな事は百も承知で、それでも書かざるを得ないと言う気持ちがあるんでしょう。
それもわからなくはない。
今本をめぐる環境と言うのはなかなか複雑なものがあります。
書店、出版社、図書館、作者、取次店
それぞれがそれぞれの課題を抱えていて、場合によっては利益相反するような面もある状況。
その中でどうやって「本」を助けていくのか
そんなふうに思っちゃうとちょっと作者の理想主義が鼻についたりもします。
でも、まぁ考え直してみれば「本」が好きじゃなければ、何も始まらないんですよね。
その気持ちがなくなれば、全てが迷宮の中に消えていっても、それはそれで仕方がない。
そうであって欲しくないと思う心が「本」への思いということなのかもしれません。
そのベースがあってこそ、ビジネスとしての有り様を考えることができる。
それさえもないのなら、
…最後の迷宮に全てが消え去っても仕方がないことなんだろうな…。
序盤やや鼻白みながらも、最後まで飽きずに聞き通すことができたのも確かです。
ちょっと青春物語風の展開もそれはそれで悪くなかったです。
甘いですけどねw。
驚いたのはこの作品に続編があることです。
話は終わってるような気がするんですけど。
一体どんな「迷宮」が残されていると言うのでしょうか?
気にはなるけど…
本を購入するまでではないかな。
Audibleになったら聞くかもしれません。
ま、僕の「本」への愛情っていうのはそれぐらいのものですw。
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