これはなかなか良い小説だと思いますよ:読書録「ようこそ、ヒュナム洞書店へ」
・ようこそ、ヒュナム洞書店へ
著者:ファン・ボルム 訳:牧野美加
出版:集英社
少し前からちょっと気になってたんですけども、ようやく購入、読了しました。
…と思ってたら、本屋大賞の翻訳部門で1位になってたんですね。
読み終えた後に知りました。
まぁ、本当に良い小説だと思います。
仕事と人生に曲り角を感じた女性が独立系の書店を開店するって言う話なんですけど、基本的には「お仕事小説」。
経営する独立系書店の話がもちろんメインになるんですけど、それだけじゃなくて、登場人物たちがそれまでに関わってきた「仕事」に関するあれやこれやが、短いエピソードで挟まれます。
ヨンジュ:燃え尽き症候群に陥り、小休止的に「ヒュナム洞書店」を開店させる。
ミンジュン:大学卒業後の就職活動に失敗し、アルバイトのバリスタとしてヨンジュに雇用される。
ジミ:夫との生活に悩みを抱えるコーヒー豆焙煎業者
ミンチョル:熱意を持てるものを見つけられない男子高校生
ヒジュ:ミンチョルの母。(ミンチョルオンマ)
スソウ:プログラマーだったが、燃え尽きて部署転換。趣味で書いていたブログがきっかけで書籍を出版し、ヒュナム洞書店で講演を行う
ジョンソ:契約社員であることに疲れ、瞑想をする場所としてヒュナム洞書店を気にいる女性。
それぞれが新自由主義的な仕事観に押しつぶされそうになっていたのを、この書店と出会うことで、そういう働き方とは違う働き方を模索するようになる。
…大きな流れはそんなところでしょうか?
自分たちで見つけたこの小さな書店の中の居場所、そこにいる友人たち
それでいながら、適度な距離感があるのがいいんですよね。
ものすごく相手のことを考えながら、自分の考えを押し付けないようにすごく注意している様子に好感が持てます
そういう「お仕事小説」の側面だけじゃなくて、本や読書、夫婦関係、親子関係etc,etc...いろいろな側面への考察が、繰り広げられるところが読みどころにもなっています。
いやー、こういうの好きですよ。
(是枝和弘監督の作品なんかも出てきます)
しかし、まぁ韓国の働き方事情っていうのは日本以上に厳しいところがあるようですね。
ちょっと息苦しくもなりました。
でももしかしたらそれは日本の数年後の姿かもしれない。
そう思うと、こういう「居場所」を描いた小説が日本で評判になるっていうのも何らかの意味があるのかもしれません
僕個人は実は、「独立系書店」ってちょっと苦手です
本は自分で選びたい気持ちが強いので、逆に押し付けがましく感じするんですよね。
でももしかしたら「書店」が生き残っていく方法はこういう方向性なのかなぁと言う気もします。
結局、僕のようなタイプの人間だとAmazonや電子書籍があれば、それはそれで事足りるって言うところがありますから。
リアル本の魅力って言うのを打ち出すには、こういう独立系の書店っていうのは有意義なような気もします。
あ、でも、こういうバリスタがいる本屋っていうのはいいかもね
そういう本屋が会社や家の近くにあったら、もしかしたら本を読む場所として活用することになるかもしれません。
そう考えるとありなんかな、「独立系書店」。
ご近所にできないかな?