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アメリカのポップミュージックから、「アメリカの今」が見える:読書録「ディス・イズ・アメリカ」
・ディス・イズ・アメリカ 「トランプ時代」のポップミュージック
著者:高橋芳朗 編:TBSラジオ
出版:スモール出版
2014年から20年にかけて、TBSラジオの色んな番組で高橋芳朗さんが特集した「アメリカの音楽シーン」に着いての放送を整理した作品。
BLMから(BLM自体はトランプ登場前からの運動です)、トランプ登場、#Me Too、LGBTQ運動、多様性・包括性、ボディポジティブ、コロナ…
といった流れが、グラミー賞での動きを中心によくわかります。
と、同時に、アメリカのエンタメ界がリベラルな方向へ進んでいくのが見えてくるだけに、それに対する「反作用」も想像できたりして…。
「トランプ」を支持する層ってのは、こういう流れが「息苦しい」と思ってるんでしょうね。
前の選挙の時、共和党を支持したイーストウッドがポリティカル・コレクトに対する反感を表明していたことを思い出しました。
本書で紹介されている前回の大統領選後のR.E.M.のマイケル・スタイプの反省の弁、
<今回のドナルド・トランプの躍進は、『サタデー・ナイト・ライブ』をはじめとするメディアやエンターテインメントカルチャーの対応が、結果的に彼を後押しすることになったのではないだろうか>
そういう面はあると思いますし、それは今回もあり得る構図ではないか、と。
正面切って「トランプ支持!」と言わなくても、「息苦しさ」や「郷愁」「不安」から、トランプを支持する人も少なからずいるのではないか、と。
それでも本書で紹介されている流れを見ると、やはりマイノリティに対するアメリカの欺瞞というのは看過することはできないのだろうな、と思います。
トランプが登場した後でも、「声」はあげられ、少しずつ前に進んでいる。
それを密かに苦々しく思う人々のことは理解できなくはないんだけど、個人的に共感することはできないな〜。
まあ、僕に大統領選の投票権はないんだけどさw。
「奇妙な果実」を初めて歌った時の、ビリー・ホリディの回想。
<私は客がこの歌を嫌うのではないかと心配した。最初に私が歌ったとき、ああやっぱり歌ったのはまちがいだった、心配していた通りのことが起こった、と思った。歌い終わっても、ひとつの拍手さえ起こらなかった。そのうちひとりの人が狂ったように拍手を始めた。次に、すべての人が手を叩いた。>
アメリカにはそういうところがあると思ってるし、そうあって欲しいと思っている。
「最初に拍手をしたひと」
その役目をアメリカのエンターテインメントカルチャーは担っているのだろう、とも。
個人的には10年代以降のアメリカ音楽って、ちょっとピンとこないところもあったんですが(ヒップホップが主役なんですが、英語がね〜w)、本書を読んで、ちょっと認識を新たにしました。
本書の最後に紹介されているプレイリストから、Spotifyで作ったプレイリスト(一部抜け、バージョン違いあり)。
しばらく聴いてみようと思います。