遊牧民、無双(イメージw):読書録「遊牧民から見た世界史」
・遊牧民から見た世界史 増補版
著者:杉山正明
出版:日経ビジネス人文庫
いやぁ、ワクワクする本でした。
もう脳内で壮大な「物語」が展開しまくるという…。
そこらへんのラノベの無双ファンタジーより、よっぽど上を行く無双っぷり。
遊牧民、TUEE〜!
…って、真面目な本なんですけどねw。
<前近代のユーラシアにおいて、大きな歴史の動因となった遊牧国家のありようを眺めながめ、それが主軸となって展開したユーラシア世界史の脈略のなかで、「国家」と「民族」をもう一度あるがままにとらえ直すこと。できればそれを、肩いからせたいかめしいことばや、現実から遊離した美しいことばではなく、ごく率直な普段着うのことばで述べてみたい。それも、細部に立ち入ることは、むしろなるべく避けて>
…という本ですから。
僕自身の感覚で言うと、世界史を考えたとき、
「西欧」と「中華」の歴史の流れの中に、忽然と現れ、席巻し、忽然と去っていく「モンゴル帝国」…と言う印象があるのを、
実際にはユーラシアの歴史の中で遊牧国家の流れがしっかりとあって、その集大成的な存在として「モンゴル」が登場するのだ、
という風に「穴埋め」された印象かな?
いや、
<西欧本位、中華王朝史観を問い直す!>
って帯で煽ってる通り、
「遊牧国家の重要性は、西欧・中華に勝る!」
って言った方がいいかもしんないw。
国家・民族・文明・文化という視点からの概念的な解説部分も興味深いんですが(「遊牧民族」というものはなく、人としての「かたまり」としてのかたちとして遊牧国家があった…という考えは現代の感覚への批判にもなり得ます)、やっぱ興奮するのは「歴史」として語られるところ。
「ペルシアーギリシア戦争」に先立つダレイオスの「スキタイーペルシア戦役」
とか、偉大なる大王との対比において、遊牧国家の姿が際立ちますし、
クビライの「大モンゴル帝国」の建設から運営における壮大さと緻密さには、改めてではあるけど驚かせられもします。(民族を超えて「人のかたまりとしてのかたち」として存在する「モンゴル帝国」は、多様性と受容性という点で「ローマ帝国」「アメリカ帝国」に通じる「帝国の条件」を考えさせられます)
中華王朝を「庇護する」遊牧国家の存在…なんてのは、まさに「問い直し」の肝。
しかし白眉は何と言っても「冒頓」でしょう。
世に名高い「項羽と劉邦」の物語。
劉邦が勝者となり、漢王朝の創祖として君臨する。
…って物語の「続き」として、冒頓の颯爽たる英雄ぶりは何とも意外にして、爽快。
いや、僕、「劉邦」が嫌いなんでw。
「史記」を記す司馬遷の「意図」を交えながら描かれるこの下りは、遊牧国家の視点から見た中華王朝史観の問い直しとしても印象的です。(武帝への辛辣な評価も含め)
誰か、「冒頓」の伝記小説とか書いてないかしらん。
ちょっと「お勉強モード」で読み始めた本なんですが、読み始めたら止まらない勢いの一冊でした。
いやぁ、まだまだ知らんことがあるなぁ。
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