未来をどう作っていくか?:読書録「未来への大分岐」
・未来への大分岐 資本主義の終わりか、人間の終焉か?
著者:マルクス・ガブリエル、マイケル・ハート、ポール・メイソン、斎藤幸平
出版:集英社新書
経済思想を専門とする斎藤幸平氏が、哲学者マルクス・ガブリエル、政治哲学者マイケル・ハート、経済ジャーナリスト ポール・メイソンとそれぞれ対談し、閉塞感に満ちた「現状」からどういう「未来」を作り上げていくべきかについて意見交換した作品。
斎藤氏自身が思想家であることから、三人のそれぞれの主張を聞き出しながらも、自分の意見もぶつける形になってるところが面白く読めました。
(とか言って、ちょっと理解が追いつかないところも。
特にマイクル・ガブリエルの「新実在論」は…)
未来は「来る」んじゃない。
未来は「作る」ものなんだ。
そういうスタンスから、「今何をすべきか」という点を語り合っています。
これは斎藤さんの問題意識にひきづられてる部分が多分にあると思うんですが、
「左派リベラルが有効に機能していない中で、右派ポピュリズムがもたらす<民主主義の危機>(独裁の危険性)にどう対抗していくか」
ってのが問題意識のベースにあるように僕は読みました。
社会運動による<コモン>の創生
「大きな物語」ではなく、目の前の「実在」を重視する
テクノロジーの進化と人間性の関係(テクノロジーをいかに人間のコントロール下に置くか)
テクノロジーによる「潤沢な社会」の到来とポスト資本主義の可能性8
ヒューマニズム、普遍主義に基づく「倫理」の重要性
等の話はなかなか興味深いです。
四人のベースに「マルクス主義的社会主義」に対するシンパシーがあるのも面白いですね。
もちろん、それぞれ差異はあるわけですが。
社会運動の成功経験を持たない日本の課題(独裁に流れやすい土壌)といった斎藤さんの問題意識なんかも興味深いです。
基本的には、
「なるほど〜」
と思いながら読んだんですけど、気になったのは、
「ヒューマニズム、普遍主義、自由・平等をベースにした民主主義を守っていくというのは同感だけど、それは<西洋主義>による偏見でしかないのではないか?」
いや、もちろんそんなことはみんな認識してて、だからこそ「相対主義」に対する厳しい指摘なんかもされてるんですが、それにしても議論の中心が<欧米先進国+日本>になってて、それ以外への言及が、結構型通りにとどまっているのが気になったんですよね。(「移民」の話は出てきますが、「移民」として捉えられているのは、欧米との関係性においてですから)
特に「中国」。
ロシアへの言及に比べても、あまりにも言及が少ないと感じました。
世界情勢的インパクトにおいては、もっとここに注目しなきゃいかんのじゃないか、と。
ま、僕が極東の国に住む人だから、余計の強くそう感じるのかもしれませんがw。
なんにせよ、「象牙の塔の住人」ではなく、「現実をどう変えていくか」という点から思索を繰り返している姿勢には感じるものがあります。
そこが「論理構成のゆるさ」に見えるところもあるんですが、それは「現実を見ているから」とも言えますからね。
(左派リベラルの「大きな物語」「統一的な世界観」への批判との裏腹でもあります)
時々はこういうの読んで、自分の固定観念に刺激を与えんとな〜w。