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分析としては凄く納得感がある。でも提言は踏み込みが足りないんじゃない?:読書録「検証 大阪維新の会」

・検証 大阪維新の会 - 「財政・ポピュリズム」の正体  
著者: 吉弘憲介  
出版: ちくま新書  (Kindle版)

大阪維新の会については、いろいろな分析評価がされていますが、いまひとつ僕個人としたフィットするものはありませんでした。
それらに比べると、本書はかなりフィットする内容です。


まぁいろいろ言われていますけど、維新の会を批判するのに、イデオロギー(自民党より右とか)や、手法(関西のマスメディアをうまく使っているとか)、特異性(大阪の地域政党で他の地域では通用しないとか)なんかからアプローチしてもピンとこないんだと思うんですよ。


本書ではアプローチとして「政策」を中心に考えています。
ある意味客観性の高いやり方で、それが大阪維新の会の実像を浮き彫りにしてると言うイメージです。
今後維新の会を語るときに、今後この分析を無視することはできないんじゃないかなぁ…と思うくらい。
作者は大阪維新の会に対しては、批判的な立場に立っている方だと思うんですけれども、分析そのものについてはかなりバランスが取れているんじゃないかと思います。
端々に苦々しい思いは読み取れますけどw。



大きな流れはこんな感じでしょうかね。


・大阪維新の会を支持する層は、特に大阪に特異的なわけではない。また維新の会が掲げる政策の成果に関しては、成果を出してるものもあれば、成果を出してもいないものもある


・維新の会の手法は「財政ポピュリズム」と分類することができる。
この手法は特に大阪だから有効だったと言うわけではなく、その意味において他の地域でも広がっていく可能性はある。


・「財政ポピュリズム」自体は全てが悪いわけではない。
ただし、その性質上マイノリティーや公共財の取り扱いが劣後する性質はあり、この点が社会を歪めていく危険性がある


<大阪維新の会の政策の背景には「財政ポピュリズム」とも呼ぶべき現象、すなわち、 ①既存の資源配分を既得権益として解体し、 ②その資源をできるだけ広く配分し直す、その結果、 ③それまで財政を通じた受益を感じづらかったマジョリティからの支持が強化される、というメカニズムが働いていることを浮かび上がらせた。このメカニズムは、中間組織などの強固な支持基盤を持たない、結党まもない政党が支持を調達するための強力な武器となる。>


<財政ポピュリズムには根本的な欠点がある。それは、個人の自己利益の追求に「財政」を従属させることで支持を固める点にある。  
第四章でも述べたように、本来、財政によって供給される「公共財」は、利益を個人に分割できない(しない)からこそ、共同の税負担で賄うことが正当化される。さらに、私的財と違い、公共財をどれだけ社会に供給するかは、市場メカニズムによって決めることができない。ここで、共同での経済活動の支出水準や負担構造を決めるのは、個人の利益を超えた「価値」にもとづくのである。>



まぁ、議員の振る舞いが結構粗雑だとか、他にもいろいろあるんですけれどもね。個人的にはw。
ただまぁそれってキャラクターですから。
都民選以降のリベラルやら保守やらのx(Twitter)上でのやりとりなんか見てると、褒められたもんじゃない振る舞いはそこここに…って言う気はしています。
そのキャラクターをああだこうだ言うよりも、その根本にある政策について論じる方が有意義なんじゃないかというのが僕の考え方ではあります。
甘いよって言う見方はあるかもしれませんが。



本書の分析には凄く納得感があるんですが、提言の方はもっと踏み込んで欲しかったかなぁって気分が残りました。
「財政ポピュリズム」って民意を得やすい部分があって、実際政策としても有効なところが結構ある。
だとすればポイントとなるのは「財政ポピュリズムのマイナス点」、具体的にはマイノリティへの視座とか、公共財の位置付けとかにあると思うんですよ。
「それが重要」
なのは理解しますが、
「重要なんですよ〜」
って訴えるだけじゃ、なかなか支持が広がっていかない。
その<現実>が顕わになったのがこの前の都議選での蓮舫陣営の3位敗退にもあるんじゃないか、と。



維新そのものについては政策とは別の要因で壁にぶつかって行くんじゃないかと思います(議員さんの質がね〜)。
でも「財政ポピュリズム」は今後有力な政策手段として広がって行く可能性はあるんじゃないか、と。
(安野さんの「デジタル民主主義」にもその可能性はあります。東さんが指摘されたのもそこら辺ですよね。
石丸さんは「財政ポピュリズム」と親和性高いと思いますよ)
となればそのことを前提にしながらも、その対抗・修正をどう言う風に打ち出して行くべきか。
ココが語られる必要があると思うんですけどね。



個人的には「リベラルの現実的組織論」が語られるべきと思ってるんですが。
「理想があれば、組織なんか適当でいい」
…じゃあ、あかんでしょ。
課題を解決して行くためのリベラル組織をどのように組成し、運用して行くべきなのか。まあ、NGO論なんですけど、もっと現実的組織としてのあり方を整理して実行してほしいという意見です。
「大きな物語」を振り回すのは、右も左もほどほどに…って話なんだけど、なかなかそうもいかないのかな〜。

#読書感想文
#検証大阪維新の会
#財政ポピュリズム
#吉弘憲介

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