本格ミステリを堪能できます:読書録「第八の探偵」
・第八の探偵
著者:アレックス・パヴェージ 訳:鈴木恵
出版:ハヤカワ・ミステリ文庫(Kindle版)
1930年代後半から1940年代初めの「探偵小説黄金期」に書かれた、私家版でしか出版されていないミステリ短編集。
元数学者の作者は、「殺人ミステリ」の数学的規則性を見出し、論文(探偵小説の順列)を書くと同時に、その規則性に沿って短編を書き上げていた。
25年以上経って、その再出版を計画する編集者が、今は隠遁する作者の元を訪れ、編集のためにその7つの作品を朗読する…。
作品としてはこの「7つの短編」が「物語中の物語」として披露されつつ、それを包含して「現在」の物語が進行し、「過去」を明かしていく…と言う構図になっています。
まあ、構図自体は「作中作」として標準的なもんかなぁと思うんですが、本書の場合、作中作である「7つの短編」の出来がいいんですよね。
トリック的には「おっとビックリ」みたいなもんはないんですがw、それぞれ語り口を変えついつ、全く違ったミステリ展開を見せながら、完成度も高い。
それでいながら…(自粛)。
「カササギ事件」等、欧米の新本格派とでも言いたくなるような新作が好評を博していますが、本書もまた、その系譜につながる作品だと言えるでしょう。
<以下、若干のネタバレを含みます。ミステリですからね。読む予定のある方は、先は読まないでください>
作中作の「7つの短編」の方は本格ミステリとして成立する内容になっているんですが、それを包含する現在進行形中の物語は、あまり「本格ミステリ」っぽくないです。
ここをどう評価するか…ってのはあるかもしれません。
僕個人は「過去に書かれた7つの短編」を使ってのどんでん返しも含め、かなり楽しめたんで「あり」なんですが、「新本格」的な<美しさ>を求めるなら、ここも…って意見が出てきてもおかしくはないか、と。
そうなったらそうなったで、「人工的過ぎる」とか言われるのかもしれませんがw。
まあ、本格ミステリ好きなら楽しめるんじゃないかなぁ。
緊急事態宣言で外出もままならない中、時間潰しに読むには向いてる作品じゃないか、と。
つまりは「お好きな方はどうぞ」。
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