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人を好きになる一瞬のその前と後で、

あひみてののちのこころは今もなお昔と同じ狂おしき熱
(AHIMITE NO NOCHI NO KOKORO HA IMA MO NAO MUKASHI TO ONAJI KURUOSHIKI NETSU)

逢瀬の後の肌は、相手のぬくもりが離れても少し熱くて
せつない。

ほんのさっきまで簡単に触れられる距離にいたのに、
この心はもう過ぎてしまった感覚を記憶でなぞることしか
できない。

高い月。煙みたいに心もとない雲。

この気持ちと同じ。

人を好きになる一瞬のその前と後で、世界は容赦なく
変わってしまう。

うれしい時は遊園地のような高揚が、苦しい時には
この世の果てのような落胆がやって来る。

そして、うれしいよりも苦しい方が何倍も多い。

こんなふうではなかった自分は、今はもう遠い。

変わったし、変えられてしまった。そう自覚している。

恋という不条理に陥落した者は、自分を保つのに精一杯で、溺れかけの人みたいに無様だ。

不毛な思考と不安がいつも表面張力でせめぎ合っている。

好きの分量がアンバランス過ぎるのは、苦しい。

自分が焦がれるほどにはきっと想われてはいない。

恋の果て、底の底はどこにあるのだろう。

どこまで進めば、安心できる場所にたどり着けるのだろう。

弱々しい薄い月に手を伸ばして、この恋と気持ちの
行き着く先を想った。


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読んでくださって、どうもありがとうございます** きらめく50音の中から掬い上げた31文字が、 あなたに届くとうれしいです。 今日も明日も、あなたの毎日が素敵な日々でありますように。 あなたの人生と世界が、優しいものでありますように。 すずき春