#328 ジェンダーの呪縛
あるゼミの女子数名から声がかかって学生たちとトークセッションした。
テーマは
「ジェンダー・ギャップ」
じぇんだーぎゃっぷ?・・・・
いや参ったな。
私はこの分野の専門家ではない。
オスのチンパンジーが何を言うか興味津々なんだろう。
女子が多いゼミなので、私は彼女たちに嫌われないようフェミニストを装えばいいのか?
学生たちは率直な意見を述べてくれたので、聞きながら思考の整理はできた。
話は私に振られた。
ダメだ、やっぱり思考の整理ができていないぞ。
筋の悪い話になるのはいつものことだ。
観念して話し始めた。
「 ビジネスの世界も政治の世界も女性の活躍がめざましいという言い方をすることがあるけど、裏を返せば、そうやって性を軸にして語っているうちはまだ男女格差があると考えるべきじゃないだろうか」
学生たちは「 どーゆーこと?」という表情だ。
「 例えばね・・・・・
自民党の総裁選に女性が立候補した時、見た目は女性だけど「男勝り」とか「男性脳」だとか揶揄するコメントがたくさんあったよね。
それって、本音は
「女性に一国の政治を任せていいのか?できるのか?」
「政治は男が取り仕切るもの」
そんな思いがあるからじゃないか。
違うだろうか?
もちろん、女性首相の誕生を願う声も多かった。
私自身、女性がやってもいいと考えている。
ビジネスに目を向けても、日本は経営者をはじめ管理職など何かしらの責任ある役職に就いている割合は男性のほうが高い。
家事・育児は「女性が担うべき」という意識が依然としてある中で、家事・育児の負担が少ない、または全くないという男性と、家事・育児、仕事の二刀流の女性が同じ土俵で対等に仕事をして同じ成果を出せるだろうか?
性差を語る前に人として持っていなければならないことがあるはず。
「男だから」「女だから」
「女には負けられない」「男には負けたくない」
という二元論で考えること自体どうなんだろう?
職場にも家庭にも性差に応じた役割分担が存在している。
もっと厳密に言えば「慣習」として刷り込まれていることがある。
私の母はドレスメーカーで教員をしていた関係で、私に洋裁やミシンの使い方を教えてくれたし料理の基本も教えてくれた。
父は「男なんだからそんなことできなくても・・」とぼやいていた。
今でいうマスキュリズムだ。
男は家事・育児はせず外で働くのが当たり前
男性は女性より収入が多いほうがいい
男がリーダーシップを取るのは当たり前
男は強くなければならない
男は女を養わなければならない
「男性 vs 女性」の構図で議論することは多い。
賃金格差、夫婦別姓、セクシャリティ、LBGTQ+、ファッション、スポーツ等々、それぞれの分野でいろんな課題が渦巻いている。
話しているうちに、モタさんこと斎藤茂太の『女のはないき・男のためいき』を思い出した。
茂太は、アララギ派歌人・斎藤茂吉の息子であり精神科医・随筆家だ。
精神医療の最前線で得たさまざまな症例と社会構造との関係を冷静に観察してきた人だけに洞察力に優れている。
彼が指摘したのは、核家族化によって祖父母が子育てに介入しなくなり、その負担が一気に妻・母親に集中したという点。
妻が子育てに全集中し、子に対する干渉が増し、母子ともにストレスを感じて鬱になったりするのだという。
子育てに嫌気がさしてネグレクトも起こっている。
その延長線上にある現在は、母親の過保護・過干渉や愛着障害の問題が注目されている。
夫が家事や子育てに対して何かしらの役割があることを自覚し行動に移せば、女性も救われるのだろうが、そのバランスがとれない家庭は問題の出現率が高い。
「すべての女性は」と一般化することはできないが、社会進出した女性の多くは家事負担が解消されたとは言えない状況にある。
増え続ける「ステルス負担」
今どきの学生はジェンダーの問題をどう捉えているのか問いかけてみた。
大半の学生は「男女差別が少なくて良い社会になった」と言う。
男子学生は「女性を差別していない」と考え、
女子学生は「男性から差別されていない」と考えている。
そういう認識の学生は実に多い。
学生のうちはジェンダー・ギャップ(労働、雇用、職務、給与、家事、子育て、介護などの分担等)の現実について当事者意識が持てないのは当然だろう。
学生の立場での「問いなおし」は容易ではない。
自分が育ってきた家庭(ファースト・プレイス:第一の居場所)もひとつの基準となる。
それは養親家庭でも養護施設でも同じだ。
波風が立たない生活を過ごしてきた家庭の子は、それが「家族のありよう」のスタンダードになる。
その逆もあるだろう。
もちろん家庭のことだけでジェンダー論は語れない。
世の中にはすでに多くの男性側のロジックによって確立されてきた概念がある。
精神も社会も家族制度も「俺たちオトコが築いてきたんだぜ」という物言いもある。
多くの女性にもそれが刷り込まれている。
ここが出発点。
「 SDGsとかもそうだけど、ただトレンドを追いかけて “ なんちゃってジェンダー論 ” を語っているだけじゃダメだよね」
「どの口が言ってるんだよ!」と心の中でつぶやく自分。
でも、男女共に何かしらの問いなおしがなければ世の中は変わっていかない。