見出し画像

325 読書日記45 ノーベル文学賞 ハン・ガンの作品を読む

ハン・ガン
Han Kang 한강)の作品を読んでみた。

『別れを告げない』ハン・ガン

韓国で最も注目されている作家だと話題になり、2016年に英国のブッカー国際賞を受賞したあたりから急激に脚光を浴び、気が付けばアジア人女性として初めてノーベル文学賞受賞。

受賞会見に応じなかった彼女。
「息子と夕食を終えたばかりで、受賞の知らせを聞いて驚いています。
息子と一緒にお茶を飲んで静かに祝いたい」とコメント。

息子さんと共に喜びを分かち合ってほしい。

『別れを告げない』を通じて、彼女の文学に触れてみたいと思い、大学の図書館で借りた。

別れを告げない過去の痛みとは何なのか。
作者は「哀悼を終わらせない」という意味だと断言している。
そして「これは究極の愛の小説」だとも語っている。

済州島(チェジュド)4・3事件(1948年)では数万人の民間人が国家権力によって虐殺され、その事実は長いこと語られることはなく、命からがら日本へ逃げた島民も口を閉ざしてきたという。

その出来事について、私は何も知識を持っていなかった。

世界遺産もある観光リゾート地として人気がある島だ。

観光は「光のあたる所を観る」と書くが、平和記念公園の存在からもわかるとおり相当に深い影もあるということだ。

ネットで予備知識を得ながら本書を読んだのだが、訳者の斎藤真理子氏が「訳者あとがき」で書いている歴史背景が最もわかりやすかった。

私が知る朝鮮の歴史は、教科書に出てくる新羅、百済、高句麗、朝鮮戦争に関すること、そしてその後の南北分断。

韓国にルーツを持つ教え子や在日三世、四世の教え子、現在勤めている大学の韓国人留学生とは、人生や他愛のない話はするが、国家に関する込み入った話をすることはあまりない。

大国(西側諸国 vs 中•ソ)の冷戦構造に翻弄され半島が南北に分断され、経済情勢が危うくなったった途端、仲間だった国が急につれないそぶりで、北朝鮮は孤立していった。孤立の先には核兵器‥‥

歴史は、出来事の中心に関与した者が、どの立場にいてどう関わったかによって解釈が異なる。

「歴史はつくられる」という言葉には深い意味があることを再認識する。

たとえ歴史が書き替えられようと、殺戮が繰り返され、罪のない人々の尊い命まで失われた事実は消えない。

史実に基づいた小説というだけでは片付けられない、人として守るべき愛がここにあると感じた。

原語は読むことができないが、彼女の文体は精緻で美しいという定評がある。
私は訳者の力量に頼るしかないのだが、ハン・ガンの世界観は十分に伝わってくる作品だった。