不良少年と腕相撲して、わかったこと
僕は、7年前まで学校の先生をしていました。
20年間の学校教師生活で、ホントにいろんな学校へ行かせていただきました。
都会の進学校、僻地の学校、小学校、中学校、高校・・・
その中でも、特に印象に残っている学校が、ある都市にある、名うての「底辺校」。
成績が下位の「荒れた学校」です。
その学校=A中学校に赴任したんだ、って言うと、みな口を揃えて
「そ、そうなんだ・・・がんばってね」
「ご愁傷さま」
「まあ、人生、悪いことばっかりじゃないよ。これからきっと、いいことが・・・」
・・・などなど、こぞって、ネガティブなコメントをくれます。
(こりゃあ、ヤベーことになっちまった・・・)
内心、そう思いました。
さて、授業が始まりました。僕は音楽の先生だったんですが、誰も歌ってくれませんし、楽器を演奏してもくれません。
特にひどかったのは、不良グループ。授業中、勝手に出て行ってしまうし、関係ない歌を歌って、授業を妨害しようとします。
ある日、放課後、自分のクラスの教卓に座って、テストのマル付けをしていた時のこと。
その不良グループが、ぞろぞろ、僕の教室に入ってきました。茶髪、ロン毛、ズボンはブカブカで、腰のあたりまで下げています。
(なんだ、何の用なんだ?!)
と、一瞬、身構えた僕。彼ら、5-6名の不良軍団は、僕をガン見しています。ところが、次に彼らの口から出てきた言葉は、意外なものでした。
「よう、音楽の先生。腕相撲しようぜ」
近寄ってきた彼らに、僕はちょっと大げさなジェスチャーで、腕まくり。
「よーし、いいぜ!誰からだ?」
そして、ひとりひとりと、腕相撲することに。
驚いたのは、腕相撲しているときの彼らが、まるで子どものようだったこと。目をキラキラさせて、キャーキャー、はしゃいでいるんです。
思えばまだ、14-15歳。ワルぶっていても、まだ子どもなんだよな、と、彼らの後ろ姿を見ながらつぶやきました。
そして、その日を境に、彼らの授業態度は変わりました。ちゃんと授業に参加し、妨害することもありません。
時は流れ、卒業式当日。彼らは「音楽準備室」に、現れました。
「腕相撲してくれたの、先生だけだったんだよ」
リーダー格の少年は言いました。「みんな、他の先生は、オレたちを避けてたんだけど、先生は、やってくれてさ。ありがとよ」
そのとき、彼らが欲していたものが「知識」よりも「愛情」だったんだ、ということが、わかりました。
ともすれば、「先生」という人種は「知識」を教えたがるんですよね。せっかく、努力して得た知識。教えなきゃ、モッタイナイ!っていう、心理から。
でも、人間は誰でも、まず先に「愛情」を求めます。教えるのは、それから。その順番を間違えると、教えたことも、うまく伝わらないんです。
なんだ。
結局、教わったのは・・・僕の方じゃないか!(笑)
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![鈴木敬(作曲家、セラピー・アーティスト)](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/88019593/profile_880956ffa89acf32b8509b2912baeb98.jpg?width=600&crop=1:1,smart)