「いま、そこにある危機」(トム・クランシー著、井坂清訳、文春文庫刊)
個人的には、90年代初頭に映画化された「パトリオットゲーム」と共にハリソン・フォード主演の映画、という印象が強い。が、原作である本書は映画版とはストーリーが微妙に異なっていて、映画版のほうを最初に見たヒトにとってはこちらの原作の結末は意外な展開に思えるかもしれない。ネタバレになるので詳細は控えるが、映画と共に本書も楽しめるに違いない。
南米の国コロンビアには、かつてカルテルと呼ばれる強力な麻薬組織がいくつか存在していた。中でも有名だったのがコロンビア第二の都市メデジンを中心としたメデジン・カルテルで、複数の主要なメンバーにより構成されていたが、中でも特にパブロ・エスコバルの名が知られている。本書ではこのエスコバルをモデルにした人物が中心となって物語が展開する。
コロンビアを舞台にした麻薬カルテルがらみの小説はあまり多くない(と思う)ので、そういう意味でも本書は貴重でもあり、また、純粋に面白い。そして特に私が関心を覚えたのが、キューバ出身の元「情報将校」の存在である。「情報」を専門とする彼の仕事の進め方、彼のような経歴の持ち主を、その専門性を買って雇い入れるという麻薬組織の姿勢など、ひと筋縄ではいかない感じが面白い。カルテルに勢いのあった時代だからこそ有り得たこと、とも言える。ただ、情報の専門家は需要があるとはあまり言えないのではないか、と思う。支払う金銭に見合った価値が彼の集める情報にあるのか否か、常に議論になりそうだからだ。
ちなみに、本書で描かれている主人公ジャック・ライアンの経歴が、なんともうらやましい。すでに株式で財産を築いており、CIAからの給料をアテにしなくてもカネは勝手に増え続けている。と同時に、CIA内でもトップレベルの地位にまで出世している。博士号を取得しており、大学で歴史を教えていて、本も書いている。それらすべてを実現しているというのに、まだ40歳にもなっていないというのである。うらやましい限りだ。
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