手話通訳者全国統一試験「聴覚障害の基礎知識」2021過去問①解説〜耳の働き、役割、聞こえの実態〜
2021年度手話通訳者全国統一試験の過去問について、参考文献をもとに独自に解説をまとめたものです。
問1.聴覚障害の基礎知識
問題解説
(1)が正しい。聴覚障害について、耳の働き、耳の構造や聴覚関する器官の働き、伝音性難聴、感音性難聴などの聞こえについて等基礎知識を幅広く理解しておきたい。
耳の働き
耳は音を聞く感覚器官である。人間は耳で音をとらえ、聴神経により脳に伝え、脳で音による情報を処理する。耳でことばを聞き、周りの人々との関わりの中でことばを理解し、自分でも発音・発語するようになる。そしていろいろな経験や学習を積み重ねて、ことばを駆使していくようになる。
周囲の様子を把握するのに音は大切である。聴覚障害者は見えないところの様子わわからない。聴覚障害者の視界に入るところで情報の保障をする必要がある。
耳は聞くことだけでなく、発音にも大切な役割がある。耳で聞くことの役割はこのようになる。
聞こえの仕組み
音は空気の振動で伝わる。外耳道を通り、突き当たりの鼓膜を振動させる。耳介と外耳道を「外耳」といい、高い音を共鳴、強調させて、聞き取りやすくする役割をもっている。鼓膜の振動を効率よく内耳に伝えるため、鼓膜と連動する三つの耳小骨との振動を増幅する。この部分を「中耳」という。増幅された振動は、カタツムリの形に似ていることから蝸牛と名づけられた器官に伝わる。中はリンパ液で満たされており、音に反応して電気信号を発せさせる有毛細胞がある。蝸牛といっしょにある前庭・三半規管は平衡感覚に関わる器官でこれらを「内耳」と呼ぶ。
内耳までは、音を振動で伝える部分なので「伝音系」と呼ぶ。内耳以降は、聴神経を通る電気信号(パルス)に変換されて脳に伝えられ「音」として感じる部分であることから「感音系」という。
耳の構造と働きについての解説動画はこちらがわかりやすのでおすすめ
鼓膜に穴があいたり耳小骨の硬化や中耳に水がたまるなどの病変が起こり、振動がうまく伝わらないために難聴となる場合を「伝音性難聴」とよぶ。
蝸牛の有毛細胞の損傷や聴神経の損傷で電気信号がきちんと脳に伝わらない場合は「感音性難聴」と呼ぶ。
また、伝音系にも感音系にも障害が起こる場合、「混合性難聴」という。
伝音性難聴と感音性難聴には次のような性質のちがいがある。
①伝音性難聴は比較的軽く、いくら重くても中等度(60dB)程度である。これに対し、感音性難聴は軽いものもあるが、130dB異常に及ぶ重度なものもある。
②伝音性難聴では、音やことばが小さく聞こえるのが不自由の原因であるが、感音性難聴では、単に音やことばが小さく聞こえるだけでなく、ことばが鮮明に聞こえないといった問題も加わる(手話の筆記試験対策テキスト,全国手話研修センター,p39)。
例えば、“みみ”ということばを補聴器を装用して聞いた場合、音量を高めれば伝音性難聴では鮮明に聞こえるのに対し、感音性難聴では下図のAかBのように不明瞭に聞こえる。このように、伝音性難聴と感音性難聴とでは性質に大きなちがいがある。
伝音性難聴と感音性難聴の両者に共通していえることは、物理的にみて人のことばは強弱いろいろに変化して耳に達するので強い部分は聞こえても弱い部分は聞こえないといった問題もある。
聞こえの実態
伝音性難聴の場合は、音を内耳に伝える部分の障害のため音が小さくなってしまう。内耳に異常がない場合は、補聴器で充分に大きな音に増幅すれば聞き取りは改善され、補聴器の装用効果はかなり高い。
感音性難聴の特色は以下の通りである。
感音性難聴では、補聴器を装用する場合、音を大きくして音として聞くことはできてもことばの聞き取りが充分にできないため、補聴器の効果に限界がある。
伝音性難聴と感音性難聴についての解説動画はこちらがわかりやすのでおすすめ
聴覚と脳と言語
われわれは言語をコミュニケーションや思考の道具として使っている。このような言語には、日本語や英語などのようにことばとして、聴覚を介して習得する聴覚言語と、手話のように視覚を介して習得する視覚言語がある。一般社会の構成員の大多数が聴者であるために、言語といえば聴覚言語が主体をなしているが、聴覚障害者にとっては聴覚言語は不利な言語である。
一方、ろう者にはろう者に固有な視覚言語すなわち手話(日本手話)がある。手話は言語としての構造があることが明らかになっており、最近の脳科学分野の研究によると手話の言語中枢と聴覚言語の中枢がほとんど重なることがわかってきた。言語は決して教え込むものではなく、こども自らが獲得するものである。獲得するにあたっては入力情報が必要であり、聴覚言語の場合は聴覚によって、手話の場合は視覚に頼る。言語は構造化された記号体系といわれ、これが特定の意味ないし概念の表象(イメージ)させる働き(象徴機能)を獲得したとき、これを言語獲得という。
言語獲得にあたっては、聴児は日本語を聴覚中心に獲得し、聴覚障害児では手話での言語獲得を行う。ただし、日本手話の場合、この手話は日本語ではないので日本語を教えるには、手話で獲得した言語をベースにして日本語への構造化を図る教育が必要になる。いわゆるバイリンガル教育であり、このためのろう学校として東京に明青学園が誕生した。言語表出をことばでするか手話によるかは表出のちがいである。いずれにしても内言語である概念が豊かに育っていないと出力に結びつかない。バイリンガル教育における日本語教育は書記日本語に重きをおいて指導がなされているが、聴覚障害児教育においては、日本語の読み書きを高めることを共通の目標としてきた(手話の筆記試験対策テキスト,全国手話研修センター,p42,43)。
(参考)
手話の筆記試験対策テキスト,全国手話研修センター
手話奉仕員養成テキスト,手話を学ぼう手話で話そう,全国手話研修センター
ゴロー/イラストで学ぶ体の仕組み