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西陽のあたる窓を眺める。

日が傾き始めた頃の、
西陽のあたる窓を眺めているのがすきだ。
別に他人の部屋のなかを覗きたいとか、
そういう変な意味じゃない。
私はただ窓だけをみていたいのだ。
もう真っ白ではない光が、
ビルやマンションや家々の窓を
照らしているのを見ていると、
電車のなかからでも歩きながらでも、
私はしみじみとしてしまう。
そして小さな想像をする。
レースのカーテンの向こうで、
子供がお絵かきをしているところだとか、
オフィスの丸見えのガラスを気にすることもなく、真面目な事務員が伝票を整理しているところだとか。
部屋のなかにいる人はみんな
気づいていないと思うけれど、
西陽はすべての窓を
等しく、眩しく、照らしているのだ。
外から見ている私だけがそのことを知っている。
それぞれの部屋のなかは
なぜだか不思議と暖かそうに感じる。
それは夕方になりかけた光の色と
関係があるのだろう。


本当はあの窓の向こうで、
悲しんだり落ち込んだり、
疲れ切ってため息をついたりしている人も
いるのだと思う。
私の祈りなどなんの役にも立たないけれど、
西陽が窓を照らすように、
そこにいる人たちのことも
つかの間温めてくれたらと願う。
私が眺める光り輝く夕べの窓の向こう側で、
みんなこの夕暮れを穏やかに過ごしていてほしい、などと思っている。


太陽は街の屋根を越えて沈んでゆく。
あたりは濃いオレンジ色に染まってゆく。
そろそろ明かりをつける時間だ。
それともまだ夕方の余韻を引きずりながら、
夜になるまでの時のグラデーションを
味わっていたいのだろうか。

闇の訪れとともに、
ひとつまたひとつと、窓が星になってゆく。
あそこには誰かがいる。
人が生きている。
夜の顔を持ち始めた街並みに
心のなかで手をふって、
私もまた灯りのひとつになるために
帰ってゆくのだった。


#夕景  

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鈴懸ねいろ
文章を書いて生きていきたい。 ✳︎ 紙媒体の本を創りたい。という目標があります。