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私は最高の金塊を買った。

夜の空港から高飛びするのだ。
金色に輝くフィナンシェを、
アタッシュケースに詰め込んで。
ズラリと並んだ香り高いフィナンシェを
うっとりと眺める。
独り占めする美味しさに、ほくそ笑む。
そんな夢を見たくなるほど、
好きなものがあるのは
クレイジーだろうか。

焼き菓子はおいしい。
マフィンも
マドレーヌも
パウンドケーキも
ガレットブルトンヌも。

私の中でのキング・オブ・焼き菓子は、
フィナンシェだ。
中でも
《ノワドゥブールのフィナンシェ》は、
絶対的に最高だ。
焦がしバターが香る外側の茶色は、さくり。
アーモンドプードルが香ばしい中身は、
しっとり。
美味しすぎて

「なんだこれは!」

と、笑いながら怒ってしまいそうになる。
それから自然と顔がほころんで、
にこにこしている自分に気づく。
角の少しカリカリしたところも、
真ん中の厚みのあるやわらかなところも、
隅々まで礼儀正しく味わう。
決してザツに食べてはならない。
それが私の中でのルール。

ノワドゥブールの店頭で
購入の順番待ちをしている時。
(人気店なので必ず行列が出来ている)
次々と焼き上がるお菓子たちの
香りが良すぎて目眩がする。
ああ今すぐに、焼き立てを頬張りたい。
プレーンなフィナンシェが好き。
でも期間限定のものにも
激しく心を掻き乱される。
ああどうしよう。
どうしよう。
どう。

果たして順番が巡ってきた時には、
プレーンはもちろん、期間限定の品も
買うことになるのだった。
買わない理由なんて、あるのだろうか?
お店の人がひとつひとつ丁寧に、
白い紙で包んでくれる。
実はその紙も好きだ。
包みを開いた時に立ち上がる香りを、
そのパリパリの紙が守っている。
手触りも、こぶりな感覚も良い。
美味しいって、いろいろ幸せなのだ。



フィナンシェは《金の延べ棒》
という言葉が語源とも言われている。
たしかに金塊に似ている。
金塊のように輝く美味しさだから、
それは正しいのだと思う。

スイーツは笑顔を生む。
極上の味は心を支え、励まし、
幸せへと導いてくれる。
頑張った自分へのご褒美。
あの人をとろけさせたくて。
近頃元気のない彼女に届けたい癒し。

言葉よりも饒舌に
何かを言い当てるかのような
フィナンシェの多幸感は、
目と鼻と口と、心と胃袋、
すべてを満たしてくれるのだった。


まだまだ私はやれる。

このフィナンシェを再びご褒美にするために、
生きていくのだ。

大袈裟なようだけれど、
おいしいスイーツには
それくらい絶大なパワーがあるのだ。
大好きなお菓子を持つことは、
喜びの数が増えることでもあると思う。

次は。
いつ食べられるかな。
楽しみだ。

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