見出し画像

やっぱり大好きだ、辻村深月作品


太陽の座る場所


わたしの大学に辻村さんが講演にいらっしゃることになり、その際辻村さんに質問する生徒として立候補したのだった。

白状するが、それまで辻村さんの作品を読んだことはなかった。

有名人に会えるなんて箔が付くかも、くらいの気持ちで立候補したのである。

その際、何も作品を読まずにインタビューすることは出来ないので、本屋で色々購入してみた。

そんなわたしが初めて読んだ作品は、「太陽の座る場所」という作品だ。

当時読んだわたしは大学生だったから、東京の香りがする、ほろ苦い小説のように認識していた覚えがある。


間違いなく季節は秋。
初めて読んだ季節も秋だったから、なにぶんその印象は強い。

するすると読めるけど、毒がちりばめられていて、その毒はどこか甘い。

田舎に住んでいた人にも刺さるし、田舎暮らしが嫌で都会に出てきた人にも刺さる作品だと思う。

あらすじ


短編集で、登場人物がリレーのように変わる。

前の章で見た登場人物が次の章の主役になるので、名前も憶えやすいだろうし、話に入り込みやすい作品だ。

高校時代同じクラスだった彼らが、クラス会に出席するところから物語は始まる。
専らの話題は元クラスメイトの大女優の話。
芸名はキョウコ。 

クラスの一軍ではあるが、あまり目立つ存在ではなかった少女が大女優に成長を遂げたのだ。
彼女は一度もクラス会に出席していない。

かつて同じクラスで話したことのある者たちは、どうにかその輝きにあやかりたいと、女優をクラス会に引っ張り出そうと画策する。


強烈な自我と支柱



登場人物は、強烈に自我を持っていて、それぞれどこを心の支えにしているかは異なる。


例えば、ファッションブランドのアルバイトなのに、そのブランドのデザイナーを同窓会で名乗る女、頭が良くて男っ気がないけれど、実は同級生の既婚者の男と不倫している女、小さな印刷会社でのOLをする傍ら劇団に入っている美女など。この美女は「美人だけどいかにも取り澄ましてそう」で、演劇活動を続けていることを誰にも言っていない。
何故なら、テレビで見てかつての同級生を驚かせてやりたいからだ。


彼ら・彼女らの心の支えにしている支柱に気づいた者は、巧みに自尊心を擽ったり、何も気づいていないふりで支柱を貶めようとしたりする。

「田舎に残った子たちの、東京に出てった人間に対する劣等感ってすごいよね。別にこっちは何も思ってないのに、何かって言うと自分が田舎に残ったのは仕方なかったっていう話始めたり、かと思うと、自分の旦那とか彼氏の自慢話。」


羨ましくないふり。或いは露骨に「いいよねぇ」と口にしてしまうことで、相手に先回りして腹を見せ、自己防衛する。私はそこを認められる人間です、と。

これ大学生の時に読んで本当にヒヤッとした。
これを書ける作者が一番怖かった。


支柱を誰にも見せないように高い自意識で覆い隠す人、支柱を見せていない自認とは裏腹に、周囲に「またこいつは…」と思われている人など、隠し方にも個性が存在する。


相手の優越感を擽る遊びや、心にわざと爪を立てるような嫌がらせを見たことがないなんて、誰にも言わせない。

これは、誰でも経験したことのある苦しみが詰まった本だ。

しかも、こんな狭い世界で息苦しい遊びに向き合う必要はないし、そんな狭い世界に拘泥せずに生きていく道もある。
むしろこの本の中でそのような登場人物も存在する。





この作品の中で、明記しないといけないことは二つある。

自分が予想する、相手の行動理由は間違っていることも多い



①登場人物が考えた元クラスメイトAの行動理由は間違っていることが多いということだ。


その章の主人公は「こうに違いない!」とAの言動に想像を働かせ、Aに「あなたはこういう理由があるから〇〇しないんでしょう」と告げるが、悉くその読みは外れる。

わたしたちが想像で第三者の行動を想像する時、自分のフィルターを通して相手を見る。

自分が導き出した最適解だから、合っているに違いないと思って意気込むが、その読みは外れる。
少なくともこの小説では。

誰しも自分の考えが正しいと思いがちだけれど、それは異なる場合もある。


それを辻村さんは描きたかったのではと思う。


②相手を利用して自分を補完することしか考えていない


そして、二つ目。


この本の主人公になる人物全員は、自分以外の登場人物を、役割としての機能としか認識していない。


「美しい男を手に入れたかった。それが既婚者でも良い。そうすることでわたしは今までのブスで男に縁のない女ではなくなる」と20代後半で化粧を施さない女は内心で呟く。


カーストトップの座を揺るぎないものにするため、美しい女の子を自らの引き立て役にしたり、1年の時に同じグループだった子を「ごめん、だってあなた弱いんだもん」とハブる。もっと酷いことだって。

まとめ

何回か読み直しているが、何回も刺さるタイミングが変わる。

今回は半田聡美さんの話に一番共感した。
わたし、でも、高間響子さんが一番好きなんだよな。
利己的だけど、彼女なりに責任を取ろうとするし、筋通すところがカッコいいんだよな。


この作品は、章の終わりに彼らの価値観が揺らいだり、変わらず強固な自我を貫いたりする。
停滞は終わる。

だからこそ、東京という大人な雰囲気で飾りながら中身はドロドロの作品なのに、何度も読み直せるくらい読後感は爽やかなのだ。


この本は大学生の時に手放してしまったのだけど、もう一度本屋で買い直そうかなと思っている。

いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集