ショートショート 107【アリとキリギリスと、オオカミ少年】
昔々あるところに、アリとキリギリスがいました。
「キリギリスさん何してるのさ。」
「あぁアリさん。今ボクは大好きなバイオリンを奏でているのさ。
ここのところずっと夢中なんだ。段々上手くなってきたんだよ。」
「確かに素敵な音色だね。でも大丈夫かい?
そんなことしてたら、あとできっと困るよ。一生懸命働かなきゃ、困っても僕たちは知らないからね!」
\おーい時間だぞ!!/
「あっ もうこんな時間か。上司がお呼びなんで私は行きますね。
さてと今日も忙しくなるぞ。しっかりと持ち場を守らなくっちゃ。」
冬。
「大丈夫?大丈夫? だから言ったのに・・・。」
**
「アリさん大丈夫?」
「うー・・・ん。キリギリスさんか。ありがとう。助かるよ。」
「君たちの働きっぷりは確かに素晴らしいよ。でも体を壊しちゃ意味ないじゃないか!
アレが君たちのボスかい?奇麗な羽を持った女性だね。
彼女はキミたちの事しっかり管理できているのかな?彼女だけ丸々太っているじゃないか。」
「しょうがないんだ。僕たちはこうする事が正しいって、ずっと年上の先輩たちにそう教えられてきたんだから。
そ、それよりキリギリスさん、こんなにたくさんの食料をいただけるなんて申し訳ないよ。でもどうやってこれを準備したんだい?
キミは秋に会った時ずっと遊んでいたじゃないか。」
「それなんだけどね。教えてもらったんだ。オオカミ少年ジュニアって人に。」
**
僕の父さんは村の人たちからオオカミ少年と呼ばれていたらしい。あまりいい呼ばれ方ではなかったようだ。
簡単に言うとウソつきってことだから。
だから息子の僕はオオカミ少年ジュニア。そう呼ばれている。
僕は幼い頃からずっと、羊飼いが常にオオカミを見張っていることがとても無駄だな行為だと思っていた。
だから大人になったら見張る必要のないようにするんだと言って歩き回ったのさ。
そのたびに大人たちは僕のことを笑ったんだ。
「またジュニアがホラ吹いてやがる」って。
でも僕は諦められなかった。だから毎日そう言ってきたんだ。そしたら少しずつ協力してくれる人が現れて、そしてついに無人監視システムを開発したんだ。
僕は今、当時僕のことをバカにしていた人たちから利用料をもらって生活している。もう羊を飼う必要すらなくなったってことさ。
それから玄関には今朝届いたばかりの大量の野菜と木の実が。
普段肉食が多いから助かるよ。キリギリスくんから届いたのさ。
彼とはいつかの秋に知り合ったんだ。
とても才能豊かなバイオリンを奏でていて、僕はつまり”ひと耳惚れ”したのさ。
でも彼は悩んでいた。
周りから止めるようにって言われ続けている。どうしたらいいか、って。
僕は素直に彼の音色が素敵だと思ったから「絶対にやめてはダメだよ。むしろ極めてみたら」と言ったのさ。
彼は今それなりに豊かな生活をして、それで僕にもこうして野菜や木の実を送ってくれる。遊び人なんかじゃない。本当に律儀な奴さ。
キリギリスくんの音色を聞いてみたいって?確かyoutubeと言うやつで聞くことが出来るよ。
彼の専用チャンネルがあるんだ。
登録者数も再生回数もものすごい数だよ。ね、僕の言った通りだろ?
**完**
本日も、最後までお読みいただきありがとうございました!
アリとキリギリス。オオカミ少年の現代版。
アリさんも偉いんですよ!